木谷美咲×村田沙耶香×藤野可織 女たちが愛でる、植物の美とエロス 『官能植物』(NHK出版) 刊行記念トークイベント 開催レポート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2017年9月21日

木谷美咲×村田沙耶香×藤野可織
女たちが愛でる、植物の美とエロス 『官能植物』(NHK出版)
刊行記念トークイベント 開催レポート

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官能植物(木谷 美咲)NHK出版
官能植物
木谷 美咲
NHK出版
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7月21日、木谷美咲著『官能植物』(NHK出版)刊行記念「女たちが愛でる、植物の美とエロス」が下北沢・本屋B&Bで開催された。

登壇したのは、本書の著者で食虫植物愛好家・文筆家の木谷美咲さんと、植物好きでともに「植物部」の活動もしているという芥川賞作家の村田沙耶香さん、藤野可織さんのお二人。
植物を愛する同世代の美しき女性作家三人によって語られた植物と文学の官能の一夜、その模様をレポートする。
司会は編集担当のNHK出版・山本耕平さん、当日の写真撮影は『官能植物』の写真も手掛けたカメラマンの丸山光さんが務めた。 

(編集部)


★植物とわたし ディオネア、絞め殺しの木、仏手柑

木谷美咲氏
 トークイベントは二部構成で行われ、前半の第一部では『官能植物』の内容と三人の植物とのかかわりについて、後半の第二部では、さらに踏み込んで、文学、植物、エロスをテーマに「官能」に迫った。

五月に刊行された『官能植物』だが、本書の表紙になっている「ハエトリグサ(学名=ディオネア)」は、木谷美咲さんが最初に好きになった食虫植物で、この出会いが食虫植物を集めるようになったきっかけだったという。

「この二枚貝状の異形の形を初めて見たときに心にざわめきを覚えた。この形状に魅力を感じて取り憑かれたように食虫植物を集めるようになったが、なぜ惹かれたのかをずっと考えていて、あるとき天啓のように、「官能的だからだ」と気づいた(木谷)」。

藤野可織さんは本書で気になる植物として「ブッシュカン(仏手柑)」を、好きな植物として「絞め殺しの木」を挙げ、「宿主を殺してしまって、そこに空洞が残るというところにロマンがある。イチジクとイチジクコバチの関係性も好きで、虫の生殖活動を利用した生態の中でも凄まじいと思う」と話した。

村田沙耶香さんは、「私自身も小さい頃、ハエトリグサが好きで、小学校で食虫植物について教わったときにとても魅惑的に感じた。弱い植物が虫を食べるということがカッコ良く思えて、溶けていく虫がエロティックなものとして感じられた」と述べ、好きな植物として藤野さんと同じく「絞め殺しの木」「ブッシュカン」を挙げて、「見た目からは官能的に見えない「絞め殺しの木」に本当に美しい官能の物語があって心に残った。あと好きなのは「オフリス」で、虫が騙されて交尾しにきてしまうところがエロティック」と語った。

両名が気になったという「ブッシュカン」について木谷さんは、「手の形をしている柑橘類の「ブッシュカン」には、指に似たその果実を食べるというところにフェティッシュでカニバリズム的な官能性を感じる。仏の手を齧る、聖なるものを食べるというタブーを犯すことは官能の本質でもある」とコメントした。
★文学とわたし 『爪と目』『コンビニ人間』

㊧村田沙耶香氏、藤野可織氏

休憩を挟んだ第二部は二人の作品についての質問から始まった。木谷さんが、藤野可織さんの『爪と目』(新潮社)について、作品に登場する「ウンベラータ」という植物のこと、コンタクトレンズの描写やラストシーンのざわざわするような皮膚感覚について尋ねると、

「最初の頃から植物のことはよく書いてるような気がする。私は現実離れした内容の小説を書くことが多くて、自分でも嘘っぱちを書いているとわかっているが、一方で本当のことだとも信じていて、いつも目の前にあるものを観察して書くという気持ちで書いている。自分の痛覚や皮膚の感触は、私にとって数少ない一次資料。これは本当なんだと自分自身に嘘を吐くときの一番大きな支えになっている(藤野)」。

村田沙耶香さんの『コンビニ人間』(文藝春秋)について木谷さんは、「読みながらずっと心がざわざわして、もしかしたら私が持っているトラウマに近いものが書かれているのではないか」と、主人公とクズ男である白羽さんへの共感を語った。それに対して村田さんは、「普段私が立っている地面が壊れてしまうようなところに、主人公がどんどん進んでいって根底から覆されるような言葉を探している。だからざわめきのほうに歩いているという感覚で書いている気がする」と話し、重ねて「システムの中の居心地の悪さやセクシャリティに対する違和感」を問われると次のように答えた。「私はすごく内気で大人が喜ぶような子どもになりたいと思っていた幼少期だった。女性というものに対しても、男性にとって都合のいい男性専用の性的な処女性のある生きているラブドール、そういうものを求められている、そうなっていくのが女性の性のあり方だと思っていた。それはすごく苦しいことだった。高校生くらいになって山田詠美さんや松浦理英子さんの作品などを通して、自分の性は男性にとって都合のいいものではなく自分の身体なんだということにようやく気づくことができたが、そうした違和感や苦しさがずっと残っているから何度も書いているのだと思う(村田)」。
★「官能」とわたし 植物・文学・エロスとタナトス

スクリーンで食虫植物を眺めながらのトーク(会場:下北沢・本屋B&B)

第二部の後半では「官能」をテーマに、三人の考える「官能」と創作における官能表現が語られた。『官能植物』執筆にあたって、官能について書くことと官能的に書くことは違うと思ったという木谷さんは、「じつは私は「官能」についてよく知らないと書きながら気づいた。エロスとポルノは違うし、生殖と官能性も違う。官能について書こうとするとどんどん官能から離れていってしまう。表現というのは、例えば男性器や女性器がコアだとしたら、その周りを衛星のようにまわらなければいけなくて、そのものずばりは表現ではないと思った」。読みながら読者に興奮してほしいと、編集者に渡すたびに「興奮しますか?」と聞いていたという。

藤野さんは、エロティシズムをテーマに書いた小説「しょう子さんが忘れていること」(『爪と目』所収)を挙げ、「死が間近な老婆の話だが、性、エロティシズムということを考えたときに、どうしても生死のことを考えてしまったのと、性が決して若い人だけの呪いではなく、死ぬまで降りられないのだと、そういうことを書いたような気がする。普段の小説では官能というより私が美しいと思う光景を描くことを励みにしていて、だからちょっと異様で怖い、気持ち悪い感じのものに流れがちになる。ただ『爪と目』のラストシーンは、私が書いたものの中ではかなりエロティックなものになっているのではないかと思う」と自らの作品とエロティシズムを語った。

村田さんは、「セックスシーンはエロティックに書きたい作品もあるが、そうでない作品ではわざと淡白な言葉を選んだりマヌケなものにしたりもする。『殺人出産』(講談社)で人を殺すシーンなどイコールセックスではないものを描くときに、ここは官能的にしたいと言葉を重ねてみたり、わざとエロティックな言葉を使ってみたり。何がこの小説にとって官能であってほしいか、それによって言葉の選び方などを変えながら書いている」と、小説中の官能表現に言及した。

最後の「死と官能」というテーマでは、エロスとタナトス、ジェンダーから飛び火してユニークで物騒(?)な発言の数々が飛び出した。

「小さいときから私はシュワルツネッガーやスタローンになりたかった。でもそれは男性への憧れではなく性がないものとして。男性でも女性でもない破壊と暴力の神様だと思っていて私もいつかそうなりたいという気持ちで小説を書いている(藤野)」。

「私も一匹の野生動物として自分はどれくらいの強さなのか、素手でどれくらいいけるのかって考えることがある。私はすっごく弱いので素手でそんなに戦えないんだろうなと。でも素手でいける人たちの世界もあって、殺しちゃうかもしれないって感覚とか、その人の肉体によっても死の感覚が違ってるんだろうなと(村田)」

「殺したいっていう気持ちと殺されたいって気持ちはどこか表裏一体という気持ちが私にはある(木谷)」。

作家のイマジネーションが暴走する官能トークは留まるところを知らず、村田さんが、「小さい頃、すごく血が飲みたかった。今でも憧れがあって採血で自分の血を抜くときに一本飲ませてくれないかなと(笑)」と打ち明けると、「自分の血というのがすごく不思議。他人の血ではダメなんですか?」と木谷さん、「いつか、叶うといいですね」と藤野さんが引き取ると、会場は大きな笑いに包まれた。そのテンションを保ったまま質疑応答が行われ、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。 (おわり)
(写真/丸山光)
2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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