ベルクソニズム / ジル・ドゥルーズ(ベルクソニズム)方法論的な闘争の極致が新訳で蘇る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月18日

方法論的な闘争の極致が新訳で蘇る

ベルクソニズム
著 者:ジル・ドゥルーズ
出版社:ベルクソニズム
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ドゥルーズのベルクソンとの関わりは、その経歴全体に渡るもので、彼は幾度もこの「生の哲学」に立ち戻った。ベルクソニズムの立場から、映画論を書いてしまおうという途轍もない野心を抱き、しかもそれを異様な形と規模で、六十歳にならんとする頃、実行に移してしまった。我々はまだその事実のおそろしさを、本当の意味ではおそらく受けとめきれずにいる。

このたび新訳された『ベルクソニズム』(六六年)は、その十年前に書かれた二篇の論攷(『無人島』所収)とあわせて、まさに「古典」と呼ぶにふさわしい、簡潔で、透徹した論理に貫かれている。

同時に、ドゥルーズがベルクソンの重要テクストを精選し、見出しをつけて編んだ選集『記憶と生』(五七年)を、忘れてはなるまい。同書と『ベルクソニズム』は、並走する存在であり、二冊を読み比べることで、ベルクソンの思考がくっきり輪郭を帯びてくるばかりでなく、ドゥルーズがベルクソンの何を残し、何を捨て、何をつけ加えたのかが、一層明確化されてくることにもなろう。

『ベルクソニズム』は、「方法論」と「存在論」という二つの相貌をもっており、両者は緊密に交叉している。殊に第一章「方法としての直観」の叙述には、異様な緊張が漂う。周知のように、ベルクソニズムはその著者の生前から反知性主義、スピリチュアルな実在論などとして扱われ、一九世紀末以来フランスに瀰漫する反動的空気を体現する思想と呼ばれることすらあった。またドゥルーズがベルクソン論を刊行したのは、史的唯物論が隆盛を誇っていた時代であった。

こうした情況のなか、ドゥルーズは非知性的で神秘主義的とみなされる「直観」という水準にこそ、限りなく精緻で厳密な「方法」を見出してゆく。そして「問題」を立てることに関して、ベルクソンを、マルクスの横に並び立つ天才に仕立てあげてしまうのだ。それゆえあくまで冷静に進められる論理的筆致にこそ、ドゥルーズの闘争の身ぶりを見て取らねばなるまい。情勢への安直な言及は一切見られない。だが繰り返しておくが、我々は六六年にいる。

ドゥルーズの凄みとは、叙述される方法が単なるお題目ではなく、実際に機能するものだということを、尖鋭な議論を読者の目の前で次々に繰り出してゆくことをとおして、パフォーマティヴに示してしまう点にある。ベルクソンの矛盾や曖昧さと思われたものが、磨き抜かれた方法のレンズをとおして拡大され、鮮やかな手際で腑分けされてゆくのだ。まるで彼の曖昧さや矛盾を指弾する批判者たちの方が、十分に厳密な分節をもちいず、論理的な順序を正確に遵守していないかのようであり、方法論への理解が不徹底であるがゆえの錯覚を抱いているかのようだ。

本書において秘かなライトモチーフにして、闘争のスローガンとなる言葉は、「正確」、「厳密」である。ベルクソンは、方法論的なこの過剰な厳密さゆえに、「知覚」や「記憶」、「現在」と「過去」等をめぐる、かつてない存在論を展開することになった(宇宙論的な記憶とその分化、潜在性とその現勢化)。こうしてドゥルーズはニーチェを読む際と同様に、ベルクソニズムを一貫した存在論的体系として構築することに、全力を傾注するのである。そしてその代償として、ベルクソンにも残る心理学的、人間主義的要素を、容赦なく切り捨ててゆく。

ドゥルーズによるこの過剰な体系化、《記憶》の存在論化、潜在性=一者の哲学をめぐって、ひいては、この存在論を援用するベルクソン主義的ドゥルーズ・・・・・・・・・・・・・をめぐって、様々な評価がなされてきた。また、『千のプラトー』をはじめ後年の書物において、ベルクソン論で析出された「方法」と「問題」の理論が駆動しているという意味で、彼は方法論的ベルクソン主義者でもあった。

いわゆる「主著」の単なる副読本ではなく、ドゥルーズの思考のうちにある内容的かつ方法論的ベルクソニズムを正確に分節するには、本書を読まずには何も始まらない、つまりそんな本なのである。(檜垣立哉、小林卓也訳)
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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ベルクソニズム/ベルクソニズム
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著 者:ジル・ドゥルーズ
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