言霊の思想 / 鎌田 東二(青土社)分節化された言語世界における宗教的言語意識の発展を考察|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月18日

分節化された言語世界における宗教的言語意識の発展を考察

言霊の思想
著 者:鎌田 東二
出版社:青土社
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言霊の思想(鎌田 東二)青土社
言霊の思想
鎌田 東二
青土社
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本書は、1999年12月に筑波大学に提出された博士論文『言霊思想の比較宗教学的研究』に加筆修正を加えた著者のライフワークである。言葉・ことば・コトバ・kotobaの持つ「いのち」が何であり、どこからどのように発生してきているかに関する、宗教学・詩学・哲学・科学を含んで超えようとする、著者らしい学際的な探究成果の提示であり、これからに向けた研究意欲の開示でもある。その著者らしさを生み出している原動力は、宗教学に足場を置きながらも同時にフリーランスの神主でありシンガーソングライター(神道ソングライター)でもある鎌田氏の生き方そのものにあり、そのことは「はじめに」のなかにしっかりと読み取ることができる。

本書の構成は、「はじめに」、序章「人類文化と言語」、第一部「言霊思想の思想史的考察」、第二部「言霊思想の比較宗教学的考察」、終章「まとめと今後の課題」、補章「詩と宗教と哲学の間、あるいは言語と身心変容技法」となっている。序章から第二部までが博士論文の基体であり、終章と補章が本書を出版するにあたってその後の探究のあり様を伝えるために追加されたものである。

さて、私たちが言葉の持つ不思議な力について考えざるを得ないのは、死や死に類するそれまでの「私」では生きてゆけない言葉にならない体験をして、そのことをどのように理解し受け取ったらよいのかについて考え、そこでわかったことを改めて言葉で誰かに伝えようとするプロセスにおいてであろう。その過程を各自の志向性に従ってどのような仕方で体験してゆくかによって、詩や芸術、宗教、科学といった専門分野の表現法が生まれてゆく。その最も根幹をなす体験について、本書では「呼吸(息)―音・声―言葉(コト・言/事)」という発話行為に関する身体論的なプロセスとして議論が説き起こされる。そこで鎌田は、発せられたその言葉を聴き取る聴覚器官に関して、三木成夫の『胎児の世界』から、耳には魚類時代の鰓から発生してきた「生命記憶」が残されているという洞察を引用しながら考察を進めてゆくのだが、言霊思想に発声と聴取という関係性の視点と進化論的な視点を加味しているところが秀逸である。こうした身体論的考察の上で、分節化された言語世界における宗教的言語意識の発展が考察されてゆく。その背景には、古事記や日本書記における「荒ぶる」→「言問う」→「喧噪」→「カオス」という過程から「和む」→「事止む」→「沈黙」→「コスモス」へという神話的創生過程への洞察が敷かれており、そのプロセスにおける和歌という詩的創造活動の重要性に注意が向けられている。

終章では、東日本大震災の被災地を視察して著者自身が言葉を失う体験をしたことが紹介される。ただ見守り傾聴するしかない極限状態に立ち戻って宗教を考察することから、原初的な言語の持つ魔術的な力に関して鎌田がこれからどのような思索を展開してゆくかが楽しみである。

鎌田はすでに『古事記ワンダーランド』(2012)において、グリーフケアの視点からスサノオの事例や和歌の誕生についての考察を試みている。人生最初の大きな喪失体験である離乳に関して「抑うつ態勢」という概念を考案し、万能感的一体感からの離別を契機として象徴形成がはじまると洞察したM・クラインの対象関係論的考察や、最新のトラウマ研究における身体論的視点を加味してゆくことによって、著者の言霊探究がさらなる展開の可能性を見いだしてゆくことを期待したい。
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2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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