郊外の果てへの旅/混住社会論 / 小田 光雄(郊外の果てへの旅/混住社会論)言及されているそれぞれの問題がやがて「郊外」という水脈に流れ込む  「郊外」が緩慢な死へと向かいつつある示唆も|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月18日

言及されているそれぞれの問題がやがて「郊外」という水脈に流れ込む 
「郊外」が緩慢な死へと向かいつつある示唆も

郊外の果てへの旅/混住社会論
著 者:小田 光雄
出版社:郊外の果てへの旅/混住社会論
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本書を初めて手にした少なからずの人がおそらく一つは驚きを、一つは違和感を覚えるのではないだろうか。驚きとはA5判で本文七六二頁、二段組からなる大著と呼ぶにふさわしいからである。違和感とは、本書のタイトル「混住社会論」から、一般的に想起される社会学的に探求された内容ではなく、各篇四千~五千字からなる文章の多くが文学批評、文化批評仕立てになっているからである。

著者がこのタイトルに拘泥したのは、郊外をテーマとした前作『<郊外>の誕生と死』(青弓社、一九九七年)と謂わば一枚の描きかけの絵画にほかならず、著者は前作の補完的意味合いも本書に込めているからだと考えられる。

前作では「郊外の誕生」と、その「郊外」の存在さえ危うくなり始めた状況を、社会学的に図表なども大いに提示して説得力を持たせ、農村地域が産業構造の変化に伴って変貌していく過程を分析し、解明している。そこでは高度成長時代に直面した農村生活者、およびその農村地域の変貌ぶりを分析するだけでなく、農村などとは無縁だったはずの人々との混住現象が現出してくる過程を描出し、郊外化へと突き進む日本の社会構造の変化や日本人の精神構造の変容を追究している。

その論述中に著者は郊外化していく変容ぶりを証明する道具だてとして、一九六〇年代後半以降を描いたいくつかの小説を取り上げ、その作品の紹介と批評を織り込んでいたのである(二〇年前に刊行されたこの前作が近頃、論創社から復刊されている)。

著者はこの前作について、本書の「序 郊外と混住社会」で次のようにまとめている。

「農村→混住社会→郊外の誕生→ロードサイドビジネスの出現↓郊外消費社会の到来という流れをたどり、その流れに伴って現われたアメリカ的風景と郊外文学の発生に言及し、バブル経済の終焉と郊外消費社会の飽和、過剰消費社会に迫りつつある少子高齢化と人口減少によって、郊外も緩慢な死へと向かいつつあることを示しておいた」

本書で取り上げられている対象作品は一五二篇に上る。なかでも多数を占めるのは、著者の言葉に従えば「郊外文学=混住小説」である。ただし言及されている対象は小説に限らない。詩、研究書、評論、映画、コミック、写真集、報告書、DVD等々、実に広範囲に及ぶ。しかもそれらは時代を超え、ジャンルを超え、国を超え、さらには「郊外」や「混住」とは関わらないかのような対象、たとえば家族、経済、歴史、民族等々について論じられている。だが著者の膨大な知識と豊かな見識と柔軟な思考によって語られているそれぞれの問題が、やがて著者の設えた「郊外」という水脈に流れ込む一筋一筋であることに読者は気づかされるのである。

一例を挙げよう。「国家、人種、人間―江藤淳、吉本隆明「現代文学の倫理」」で、国家が消滅しても「人間」という概念は簡単には消えないとする吉本に対し、江藤が「人間」としてではなく「人種」として見られると反論するが、吉本はこの問題への深入りを避けてしまう。興味深いのは、著者が江藤淳はアメリカで「人間」ではなく「人種」として見られたことを暗に告白し、吉本がそれに驚きを覚えたからだと捉えている点だろう。ここには著者の洞察力の確かさが伺える。しかも著者の柔軟な思考は「人間」「人種」に絡んで、著者自身の居住地域での日系ブラジル人との混住化に話題を転じるのである。そして二〇〇八年の世界不況を境に消えていった彼らと重ね合わせるように郊外消費社会に支えられた「郊外」が緩慢な死へと向かいつつある示唆も忘れない。

それでは「郊外」の死の先にいったい何があるのか、どうやら著者にはまた大きな宿題が残されたようである。
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2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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