写真技法と保存の知識 デジタル以前の写真―その誕生からカラーフィルムまで / ベルトラン・ラヴェドリン(青幻舎)◇学芸員に必須の書◇  記録や表現に対する人間の欲望についても考えずにはいられない|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月18日

◇学芸員に必須の書◇ 
記録や表現に対する人間の欲望についても考えずにはいられない

写真技法と保存の知識 デジタル以前の写真―その誕生からカラーフィルムまで
著 者:ベルトラン・ラヴェドリン
出版社:青幻舎
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東日本大震災後、被災地で拾われた写真の泥や海水を洗って持ち主に返すボランティア活動が盛んに行われた。何もかも以前とは変わってしまった嘆きの中で、写真には家族との思い出や何げない故郷の風景が残っていた。生活の記録がこれからの支えになることを願って写真関係者も洗浄作業に向かい、日本写真学会やフィルム会社のHPに対処の手引きが掲載された。だが、残念なことに、化学工業製品である写真の物質性が変化してしまうと復旧はできない。

デジカメやスマホの出現以前、一般家庭にある写真のほとんどは、フィルムカメラで撮影されて近所のDPE屋さんにプリント依頼された。技法区分で言えば、一八八〇年から現在まで発展しながら続いているゼラチンシルバープリントである。

光によって得た像を定着させる写真技法は、一八二五年頃にフランスのニエプスが撮影に成功したヘリオグラフィーに始まる。一八三九年にはダゲールによる銀板写真「ダゲレオタイプ」が特許を認められて、これを写す世界初の市販カメラも販売された。以降、個人や企業によって、写真技法は様々に発展していく。

本書は、写真の実例をカラーで示し、ベース面や画像面の構造図版を付し、歴史や製作法などを解説し、光や湿度等への耐性ランクをわかりやすく図式化している。ティンタイプ、アンブロタイプ、オートクローム、サイアノタイプ、ウッドベリータイプ、コロタイプ、チバクロームプリント等々、ヘリオグラフィー以降デジタル以前の技法が網羅されている。目前の写真がどんな技法で製作されているのか、見極められるように図式化されているのも有用だ。

今では使われない古典技法の写真も、郷土資料館や美術館には多数収蔵されている。劣化の種類と影響要因、保管に適した環境や包材にも言及する本書は、学芸員の必須書と言えよう。

それにしても、ニエプス以降二〇〇年足らずで開発された写真技法の多様性は驚くべきものだ。それぞれの写真が持つ風合いを鮮やかに示している本書は図鑑的な楽しさもある。眺めるうちに、これらを開発させた原動力、つまり、記録や表現に対する人間の欲望についても考えずにはいられないだろう。

ラヴェドリンによる原著の上梓は二〇〇七年で、十年を経て刊行された日本語版では監修に高橋則英日大教授を迎えて内容が更新された。翻訳は日本では数少ない写真修復家の白岩洋子氏。丹念な仕事で定評を得ている白岩氏は、震災直後から被災写真救出ボランティアに従事していた。少し落ち着いたところで、自分にできる事は何かと考えて本書に取り組んだという。

紙のジャケットをはずして本体の表紙を見ると、銀色の家族写真が浮かびあがる。ゼラチンシルバープリントへの思いを感じる中島雄太の装幀も好ましい。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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