与那国島誌 東アジアの南向き玄関口 書評|宮良 作(南山舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年9月18日

国人のこころの誌し 
島の特徴と独自性とは

与那国島誌 東アジアの南向き玄関口
著 者:宮良 作、宮良 純一郎
出版社:南山舎
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にっぽんの西のはなに小さな国がある。石垣島へ127キロ、那覇へ520キロだが台湾には110キロ。南十字星の見えるらしい、にっぽんに一括りしたことを申しわけなく思わせる位置の島、与那国。島の特徴と独自性を、地勢、自然、歴史、暮らしにわたり誌したものではあるが、その道の専門家によるのではない。島に生まれ島に育ち旅に出て故郷に戻った、与那国を愛して止まぬ国人のこころの誌し。そのこころは「東アジアの南向き玄関口」として開いている。

船の旅人の発つ港の名、「波多浜なんたはま」はあて字らしい。名曲として知られる島唄『与那国スンカニ』に、「ミナンダアワムラシヌミヌナラヌ」(別れがつらくてならぬ、目からこぼれる涙は泡盛の杯からあふれ砂浜に落ちる)と詞にある。ミナンダは眼涙みなんだ、なみだの濁点が取れて「なんた・浜」になったという。15~17世紀の琉球王国は大航海時代。朱印船も行き交った。ヨーロッパ、インド、インドネシア、フィリピンなどからの船と男を、眼涙みなんだの浜は受けいれる。世界の方から与那国に入り首里・大和のほうへ去ってゆく、おそらく島の女の眼に涙を浮かばせて。『続日本紀』(714年)に登場する「京に運ばれたクバ」は与那国産だと著者は確信する。

琉球王朝は人頭税(貢納米等)を課す。人数が多いと耕作面積が不足、つまり一切合切を取り上げられることにもなる。あげく上納地琉球那覇までの運賃も負担させられた。本書にはないが、そこで弱者の間引きが行われた。この苛酷税が算法を生みだした。那覇と薩摩間は380里、これを基準に各島間の距離を決める。もちろん実距離ではない。琉球を収奪する薩摩までの運賃を、米106升につき3斗8升とした“距離”だ。与那国と那覇間は379里にもなったという。さらに品目や数量を示すバラザンとの、いわば藁製の計算機を創案し、カイダディとの絵文字も創った。苛酷な収奪は才覚となり、文化の創造力となったのだ。極限的暮らしの中でも島人の性格は温厚で、どろぼうはおらず、道に落ちているものは拾わず、喧嘩というものがなく、武器もなかったという。稲の刈り入れ前には、人々は慎み深く、大声を出さず草笛であいさつをする。大声を立てると稲霊が逃げてしまうのだ。島々に権力者が登場する時代になると、与那国にはサンアイ・イスバという女の子が生まれてすくす大女に育ち、酋長になってジャンヌ・ダルクみたく島を護った。その島に近現代戦争がやってきた。この戦いはいのちを殺して、精神を殺す、二度殺されるのだ。戦死の大舛松市さんは、本土を防衛する沖縄地上戦の戦意高揚の、軍神に祭り上げられた。その妹の清子さんはひめゆり学徒隊で戦死した。

こんどは自衛隊がやってきた。そこで起こる、起きうる問題を各専門家が寄稿している。要点のみを引く。生物多様性について屋富祖昌子(理学博士)――与那国は、小さい面積に溢れるような多様な生物が生息する島としてその重要性が認識されており、その多様性を維持する道を、軍事基地化を否定し、平和裏に生きる中で模索しつつ、先頭に立って示すことができる島である。自衛隊レーダーと電磁波問題を賀数清孝(琉大名誉教授)――レーダーなどの近くで強い電磁波を浴びると、ただちに体温上昇をもたらし(電子レンジがそれ・筆者)命にかかわることもある。日・米の(電磁波)規制値は世界ワーストだ。与那国島の絶滅危惧種アオナガイトトンボについて、渡部賢一(日本トンボ学会会長)が、そして「寝耳に水」だった、自衛隊配備の政治的背景を著者が解く。石原慎太郎が都知事時代に起こした、無責任極まった尖閣買収問題は与那国島(石垣島も)に深刻な事態に膨脹しつづけている。地政学上からも、やはりにっぽんに一括りしたことを申しわけなく思わせる。

本書第5章「日本国憲法をチマムヌイ(与那国島語)で」から一部を引いておきたい――日本国 ぬ いくつぁ きる くるみ や みとぅみらりぬん、また どぅるし や ならん。(日本国の戦争する計画や権利は認められません。また、許しません)
この記事の中でご紹介した本
与那国島誌 東アジアの南向き玄関口/南山舎
与那国島誌 東アジアの南向き玄関口
著 者:宮良 作、宮良 純一郎
出版社:南山舎
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2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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