田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(下)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年10月3日

田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(下)

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住宅街の呉服店として、今年で九年目を迎えた「田園調布 秀や」。開店当初から、一人でも多くの人に着物を着てほしいと、“着付け教室”、“悉皆”と呼ばれる手入れや寸法直し、着付けのサービスなど、着物にまつわることをトータルで引き受けている。「着物や帯を買っていただくことはもちろんうれしいですが、今あるお母さまの着物をどう生かすか、お困りの方に寄り添って、新しい提案ができればと思っているんです」

私も大事にしていた帯に、愛猫が粗相をしてしまい、大慌てで「なんとかしてほしい」と狩谷さんに泣きついたことがある。また、当時一緒に働いていたスタッフが、「身内の結婚式に出るので、譲り受けた留袖に合う帯が欲しい」と狩谷さんに探してもらったことも。呉服はやはり高価なものが多く、気軽に買えるものではないと思う。だからこそ買い手に寄り添って、売ることよりも、愛着を持って長く使っていくことを支えるその姿勢は商売の基本だ。それを忘れないところは、きっと生き残っていくのだろう。

また、「秀や」が他の呉服店と大きく違うのは、そのコーディネート力にある。着物から入るのではなく、一人ひとり違うお客様の魅力、それをトータルコーディネートの力でどう引き出すか。狩谷さんはこのことにかなりのウエイトを置いている。「お客様とお話しながら、その方の性格や好みをお聞きしているうちに、小さな天使が肩に舞い降りる瞬間があるんです。その天使とお話しながら、この方にはこれがいい! と閃きます」。

なんともおとぎ話のようだが、自分が選ぶものと違うものを提案されるとき、そこには新しい自分に出会うようなとてもうれしい瞬間が、女性にはある。
狩谷さんが好きなものを店内に並べる
着物と帯、帯上げ、帯締め、衿はどうするか、詰めるのか、抜くのか。ゆったりと着るのか、ピシッと着るのか。狩谷さんは「着物ほど個性を出せるものはない」という。「洋服だと、そのブランドが素敵なのか、その人が素敵なのかよくわかりません。着物だと、着物と帯と小物で“あなただけ”の世界が作れるんです」「出来上がった着物をお渡しするときのお客様は、こちらまで嬉しくなるほどの笑顔でいっぱいになります。ましてや出来上がった着物を着付けして差し上げた時の喜びようを見ていると、着物屋でよかったとつくづく思います」。お金をいただく以上のものをいただくことの有難さ。これからも一人ひとりに寄り添う、昔のような呉服屋を目指していきたいという。

今、狩谷さんは九〇歳になる父親と一緒に暮らし、介護をしながら少しでも元気にしようと、さまざまに工夫しながら日々過ごしている。見捨てられた犬や猫を引き取って育てる暮らしも、もう何年にも渡っている。「病気の子や育てられないからとキャンセルされた子を引き取って。もう、四〇匹くらい育てたと思います。今は三匹の保護犬を飼っています。この子たちはどこにも渡せない病弱の子たちで、こちらが愛情を与えていると思っていましたが、逆に愛情をもらっている。だから、一緒にいるときが至福の時なんです」

今もある健康サプリメントのテレビCMに出演している狩谷さん。健康の秘訣を尋ねると「よく食べ、よく寝て、よくしゃべる。そしてよく笑う!」と即座に返事が返ってきた。

六〇歳を過ぎ「嫌なことはもう、したくない」という。「好きなことをコツコツ回り道しながら楽しんでやっていきたいと思います」

十月十八日からの銀座三越とのコラボレーションは、「田園調布 秀や」が新しい一歩を踏み出す今までになかったチャレンジ。「秀や好み」が、新しいお客様の目に触れる、またとない機会になりそうだ。

田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(上)
2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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