斉藤斎藤『渡辺のわたし』(2004) わたし、踊る。わたし、配る。わたし、これからすべての質問にいいえで答える。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年10月3日

わたし、踊る。わたし、配る。わたし、これからすべての質問にいいえで答える。
斉藤斎藤『渡辺のわたし』(2004)

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渡辺のわたし(斉藤 斎藤)港の人
渡辺のわたし
斉藤 斎藤
港の人
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現代短歌のパロディの名手といえば斉藤斎藤である。歌集『渡辺のわたし』にはCMのコピーから宇多田ヒカルの歌詞、現代短歌の専門用語まで縦横無尽にパロディが持ち込まれている。ときには既成の言葉をほぼそのまま引用しただけのものを短歌として発表することもあり、短歌のマルセル・デュシャンとすら呼べそうな試みにも取り組んでいる。

掲出歌は武富士のテレビCMに使われていたフレーズ「わたし、踊る。わたし、配る。」に、ウソ発見器で使われる決まり文句をぶつけてみせたもの。

「わたし、踊る。わたし、配る。」のフレーズは、「わたし、借りる。わたし、取り立てる。」なんて続きを付けられてずいぶんとネタにされたものだが、さすがに斉藤斎藤はそんな素人レベルの発想にはとどまらない。サラ金のイメージの表層に引きずられるのではなく、その本質にあるものをえぐろうとしたのだ。

もちろんウソ発見器のイメージは、企業の実体とは裏腹にむやみに明るい武富士のCMに、「ウソ」を見出したがためにこのような発想を得たのだろう。しかし本当に興味深いのは、三人目の「わたし」の心理だ。「すべての質問にいいえで答えなさい」と命令されたかどうかは、実は書いていない。なのに「すべてにいいえで答える」と宣言しているのだ。あらゆる思考を捨てて踊るだけ、配るだけになった人に負けないくらい、ウソ発見器にかけられていることを自明化してしまった人間は不気味なのである。
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2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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渡辺のわたし/港の人
渡辺のわたし
著 者:斉藤 斎藤
出版社:港の人
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