栗原耕平(エキタス)+今野晴貴(POSSE)+雨宮処凜(反貧困ネットワーク世話人)=鼎談 #最賃1500円になったら 『エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ』(かもがわ出版)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年10月5日

栗原耕平(エキタス)+今野晴貴(POSSE)+雨宮処凜(反貧困ネットワーク世話人)=鼎談
#最賃1500円になったら
『エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ』(かもがわ出版)刊行を機に

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「最低賃金を1500円に」、若者たちがストリートで怒りの声を上げはじめた。その名は「エキタス(AEQUITAS)」。AEQUITASとはラテン語で「正義」や「公正」を意味する。格差社会が進行し、貧困と労働問題が拡大するこの国に生きるすべての人たちの運動として、「当たり前に生きさせろ!」という怒りを社会を変える原動力として、社会的正義の実現を求めて彼らは立ち上がった。今夏、そのエキタスの発足当初からの活動を追った新刊『エキタス生活苦しいヤツ声あげろ』(かもがわ出版)が刊行された。本書の刊行を機に、エキタスの栗原耕平さん、POSSEの今野晴貴さん、反貧困ネットワーク世話人で作家・活動家の雨宮処凜さんにエキタスの活動について鼎談していただいた。 (編集部)

AEQUITASは「正義」「公正」の意

栗原
 エキタスは二〇一五年九月から活動が始まりました。エキタスの発足は、安保法案(戦争法)の強行採決の後で、成立後に安倍政権は経済政策を打ち出してくるだろうという議論があって、そこを狙ってということですね。僕自身は二〇一四年から個人加盟ユニオンの運動にかかわっていて、団体交渉に出たり、労働相談に同席したりといった活動をしていたのですが、現場にいるとブラックな働かせ方をするブラック企業を目の当たりにするわけです。でもなかなかユニオン運動が広がらない。エキタスのメンバーが言っていたことですが、“まるで穴のあいた船から水を掻き出しているようだ”と。全体的な状況が良くならない中で社会的な運動を展開し、かつ社会的な制度政策要求をしていく必要がある、そういった問題意識を持つ人たちがユニオン運動の中でもいました。他方で二〇一一年以降、反原発運動が出てきて、今まで路上に出てこなかったような人たちも路上に出てきて政治的な影響力を持っていった。それが反原発とか反ヘイトとか反安保法制などという形で盛り上がっていく状況があって、ユニオン運動の側としてもそういう運動をやりたいなというイメージがあった。

路上で運動をしている人たちも安倍政権を倒すというのがひとつの大きなイシューではあるのですが、そのためには経済問題、生活問題を打ち出して対抗軸を作らなきゃいけないという問題意識を持つ人たちがいて、その中で一緒にやろうという動きが出て来て、エキタスを発足させたんです。僕と本書に登場している原田仁希さん(三一頁)がユニオン側として参加して、他の中心メンバーには路上の運動でデモをやっていた人たちもいて、デモのやり方などはそういう人たちにかなり教わって、二〇一五年の十月十七日に第一回のデモ「生活守れ!上げろ最低賃金デモ@新宿柏木公園(参加人数七〇〇人)」を行いました。

僕が労働運動の世界に入ったのは大学である先生に出会ったことが大きくて、大学に入ったときは、労働問題、貧困問題を勉強するとか、運動するとは思っていなかったんです。でも、勉強会などを重ねる中で、日本のワーキングプアの問題がかなり深刻な状態だということがわかって、それを改善する為にはやはり労働運動が大事だと思って、個人加盟ユニオンに入りました。
今の大学生はみんな“当事者”

栗原 耕平氏
栗原
 僕の大学だと七割がバイトしていて、奨学金も結構みんな借りているなという印象があります。奨学金を借りていて仕送りもないとか、授業の前にバイトに行って、授業が終わってまたバイト行ってダブルワークしてみたいな人もいますし、うちの大学でたまにエキタスの話をさせてもうことがあるのですが、感想を見るとびっくりする。デモやってるというと、もうちょっと批判的な意見があるかと思うのですが、時給が一五〇〇円になったら嬉しいなとか、それなら私も参加したいという意見がすごく多い。みんなバイトして働いているので、時給が一五〇〇円になったら相当生活がラクになるという感覚があるんだと思いますね。ハッシュタグで「#最低賃金一五〇〇円になったら」と呼びかけたときも、「旅行に行きたい」とか、生活プラスαの要求が出てくるかと思っていたのですが、返ってきた答えは全然そうではなくて、「三食食べられるようになる」「八時間眠れるようになる」「病院行けるようになる」とか、あまりにも切ない。

この本でも、ブラック企業の話で精神疾患が増えているという話がありましたが、そういう状況を反映していたりするんだろうなと思うんですけど、切実でした。
今野
 エキタスのメンバーとPOSSEとは二〇一五年十二月十三日の二回目のデモ「上げろ最低賃金デモ@新宿柏木公園」に行って交流したのがたぶん最初ですね。僕らもエキタスが出来たところからずっと話は聞いていたので、POSSEの何人かでデモに行ったんです。
雨宮 処凜氏
雨宮
 私も二回目のデモに行ったのが最初で、行ってみたらエキタスの原田さんとか結構知っている人がいたんです。原田さんとは二〇一一年以降の脱原発運動でよく顔を合わせていた。あとは全然知らない若い人たちがいて、本書に登場する藤川里恵さん(二七頁)が伝説のスピーチをして、今の日本の生きづらさとか働きづらさだったり、今野さんがこの本でも書いているように「真正な貧困者だと証明しろ」みたいな貧困バッシングのこととか、そういう声が集約されていて、デモに参加しながら一番前の方で泣いていたんですけど、周りの人たちもみんな泣いていて、こんなデモがあるなんて、と衝撃でした。もちろん、その前にもSEALDsの人たちが等身大の言葉で安保法制を語る姿に感動していたのですが、貧困とか最低賃金の話になったらもっと悲痛な魂の叫びみたいな言葉が出てきて、まったく今までと違う運動が登場したと思いました。本書でも言っていますが、貧困をテーマにしているのにものすごくカッコいいし、沿道の反応もいいし、飛び入りで参加してくる人たちの共感の熱も感じたし、「一五〇〇円いいよね」と喋っているのを聞いたりして、なんて成功しているんだろうと。これまで十年、反貧困の運動をしてきましたが、当事者の苦しみを伝えて共感を得るやり方だけじゃ限界があると。そうじゃないやり方を何年も考えていたので、エキタスが出てきてびっくりした。こんな当事者性を持った運動が、しかもこんなに強い言葉と怒りを持って現れるなんてと衝撃でした。十年運動してきたけど、藤川さんのスピーチにあったように、弟が自衛隊の一次試験に受かってそれで大学に行こうか悩んでるとか、奨学金の問題とか、どんどん状況が悪くなってきて、十年前も酷い状況ではあったけれど、ある意味でまだまだマシだったかもしれないなと。例えば二〇〇八年頃に、生活困窮者を支援する団体やフリーター向けの労組なんかに自衛隊の勧誘が来たりとか、そういう具体的なことがありましたが、自衛隊の問題はまだ近くはなかった。でも、今は奨学金の延滞者に防衛省のインターンをやらせればいいという発言が政府の有識者会議で出るとか、えげつなさが進行しましたよね。
今野
 十年前とは貧困の状況が全く違います。僕が大学生だった十数年前とは全然雰囲気が違って、当時はアルバイトをしてもしなくても普通でしたが、今はみんなアルバイトをしていて、逆に何でしてないのという感じだと聞きます。昔の貧困運動のときは、派遣労働者やネットカフェ難民の人のことを知って多くの人がショックを受けましたが、今では、あのころ問題になった貧困の実情を訴えても、響かないだろうなと思います。「そんなのまだ本当の貧困じゃない」と、逆にバッシングされるかもしれません。家があって月給二〇万円以上でしょ、と言われますよね。あのときの製造業派遣の人たちですら、今は悲惨と言えないくらい底が抜けた。「酷いから改善しよう」じゃなくて、「お前らなんかたいして酷くないから甘えるな」と、同じものを題材にしても、世論が逆転した。これがこの十年の変化です。
最賃1500円と中小企業支援がセット

栗原
 貧困や労働問題が大衆的になっているのに、自分が当事者だと思えない人が多くて、メディアも大変な人たちを取り上げるし、実は当事者なのに自分と遠い問題なんだと思ってしまう。エキタスに参加している人でも、自分は当事者じゃないと言っていて、でも聞いてみると、昔長時間労働で倒れたことがあるとか、あるいは賃金を聞いても最低賃金とそんなに変わらない人も結構いるんです。ですからエキタスは悲惨な運動にしないというコンセプトでずっとやってきていて、そういう運動の中で自分も当事者だと気づいたり、デモに参加して労働組合に相談してみようかなという人が一定数出てきたりする。もうちょっと広い層を当事者として包摂していかなくてはいけないんだろうという感覚がありました。

エキタスのスローガンとしては、最低賃金一五〇〇円と中小企業支援をセットで訴えています。日本で最低賃金一五〇〇円と言うと、いろいろ問題が出てくる中で一番多いのが「中小企業潰れるぞ」ということなのですが、そこで対立構造が作られて賃金が上がらないといのがずっと続いて来ていることだと思うので、中小企業は敵ではないし、中小企業も支援して最低賃金を上げましょうと。
「エキタス 上げろ最低賃金デモ@新宿」(2016年12月4日)
今野 晴貴氏
今野
 こういう主張が街頭で支持されているということがすごく大事なんだろうと思うんです。すごくリアリティがある主張だし多くの人が賛同できるというところに魅力がある。とにかくわかりやすいですよね。例えば派遣も重要な問題なんだけど、普遍性については微妙なところがあって、派遣じゃない非正規の人、正社員で苦しい人にとっては、自分とは違うカテゴリーの話だと受け止められてしまう場合もある。最低賃金一五〇〇円も、昔だったら非正規の人たちだけの主張と見られていたと思いますが、実は、今では正社員の人たちも時給換算で計算されているので、共通の課題に変わってきています。固定残業制といって時給をなるべく安くして、月給はあたかも今までのように二〇万、二五万だと見せて「残業代込み」で月給を表示されている正社員がものすごく増えているからです。いわゆる「ブラック企業」の労務管理の典型です。そうすると一五〇〇円という主張は非正規の特別な主張ではなく、正社員の人も含めて生活が苦しい人たち全員に納得できる普遍性のある主張だし、時代もそういうふうになってきたわけです。そうした中で、カッコいいデモをやって沿道の人たちが賛同するっていうのはすごくいいですよね。
栗原
 エキタスの一五〇〇円という主張は、二〇一五年くらいに「ファイト・フォー・フィフティーン(Fight for $15)」の運動が世界中で成果を挙げていって日本にも伝わってきたときだったので、それにも影響を受けていて、エキタスでコーラー(デモ・コールの発声者)をやっている小林俊一郎コバシュンさん(四五頁)が日本でもこういう運動をやりたいよねと言って、最低賃金一五〇〇円になったんです。生計費原則からしても、適切な良い数字だと思います。
雨宮
 貧困問題を訴えると、必ずと言っていいほど「自己責任だ」とか「働け」と言われるのですが、最低賃金一五〇〇円は自己責任とは言われない。「貧困なくせ」とか「弱者救済」みたいなことを言っても、あいつらはなまけてるんだ、自己責任だという圧力があったのが、最低賃金だとそういう声が来ないというのはすごい発見でした。
今の日本はクリアできない“無理ゲー”

今野 晴貴氏
今野
 今は非正規労働者が四割近くいて、主婦のパートのような「家計補助型」ではなく、自分だけで稼いでいる「家計自立型非正規」も増えている。それで時給七〇〇円、八〇〇円で暮らせなんて、無茶言うなって話です。逆にそれでもすごく社会保障が手厚くて子どもができても全然お金がかかりませんとか病気になっても医療費はかかりませんとか住居も保障されてますとかだったら、多少賃金が低くても何とかなると思うのですが、社会保障も世界的に見ても低劣な日本でどうやって生活するのかという話ですよね。

『ブラック奨学金』(文春新書)の中でも書きましたが、日本社会での生活は、クリアできない無理ゲー(何度挑戦してもクリアできないゲーム)のようだと思います。あの手この手でキャリアをつくろうと、借金して大学出て、良い仕事を目指してみたりするんだけど、親が介護になった途端にアウト、自分が病気になってもアウト、非正規・ブラック企業に入ってもアウト、パワハラ上司が来てもアウトで、どれかは来ちゃうでしょうという。賃金は低くて非正規ばかりで挙句の果てが社会保障もないという、この閉塞感。
栗原
 僕の知り合いでも派遣で働いていて時給は一五〇〇円を越えているくらいなんですが、親が介護状態になって辞めざるをえなくて実家に帰ると。その人はパートナーもいて子どもが欲しかったけれど、もう十年くらい前に「俺は諦めた」と言っていて。他にもずっと非正規で働いていた人で、正社員を目指してアパレル会社の正社員になったけれど、案の定ブラックでパワハラされて働けなくなってしまった。その人はユニオンに加入して交渉して、会社都合にさせて失業保険をもらえたという状況ですが、本当に無理ゲーだと思います。
今野
 クリアできない奴が悪いみたいになっていますが、いやそんなの無理だろうと思います。
雨宮
 少子化対策も国レベルでは「とにかく産め」みたいなメッセージなのに、企業レベルになると、「なんでこんなときに妊娠なんかするの」「計画性がない」みたいな、罪人扱いですよね。人格否定くらいなことまで言われながら、産めと言われても。しかも非正規なんて制度が整ってないからもっと無理です。そう考えたら産める条件は一つもない。フランスの少子化対策・家族政策に関する本などを読んでいると、前提条件が全然違っていて、PACSという事実婚(民事連帯契約)の制度はもちろん、育児手当が二十歳まで出るとか、男性ももちろん手当があるとか、ありとあらゆるケースが想定されていて、どういう状態であっても支援しますよ、というものができている上に三年の育児休暇後はもとのポジションに戻れるという法律があるとか、全然違う。社会のシステム、制度が産ませようとしているか、いないか。どうしても産みたいなら自己責任で自分で勝手にやれみたいなのとは正反対です。
今野
 産めのメッセージもあるけど、やってることを見ると産ませる気がない。僕が感じるのは、この国の上層部、支配層の人たちが、外国人でいいと思っているんだろうということです。どう考えても本気で日本社会の再生産を実現する気はなくて、外国人に働いてもらうことを前提に考えているように見えます。でも日本のこの労働条件のところに行きたい外国人はあまりいないと思います。特に財界が期待する「高度人材」ほど敬遠するでしょう。日本は打ち捨てられていく感じで、日本のエリートの人たちはみんな日本を泥舟にして、日本はもうどうでもいいのかと思えてしまいます。
ブラックオリンピック 働き方改革

栗原 耕平氏
栗原
 エキタスの運動側の問題意識としては、ブラック企業の過労死や簡易宿泊所の火災などに焦点を合わせた社会的な運動がかなりないなと思っていて、先日は「大成建設本社前抗議」(二〇一七年八月二二日)といって、新国立競技場現場の過労死を問題化して社前行動を行いました。ツイッターで拡散されて一〇〇〇リツイート以上されたのですが、当日集まったのは一〇〇人いかないくらいでした。
雨宮
 でも一企業の前にそれだけ集まればなかなかです。オリンピック絡みで、二三歳の新入社員が過労自殺という、ある意味象徴的な事件でした。
今野
 今、POSSE関連の組合(ブラック企業ユニオン)では警備会社の大手企業と団交をやっていて、そこも労基法なんてあったのというくらいのやり方をしているのですけど、工事現場は同時に警備が必要なので、オリンピック絡みでも警備が忙しくなるのです。

オリンピック本番になったらそれこそ警備が膨大になって、そこが半端なく「ブラック」になるでしょう。ですからオリンピックに絡めて警備業界を問題にしていこうと思っていて、オリンピックから労働問題を喚起していきたいですね。
栗原
 絶対、そこを握りつぶそうとしてくると思いますね。運動側で可視化していくってことをやっていかないと、本当にいろんな被害が出そうです。
今野
 「ブラックオリンピック」ってキャンペーンやりましょう(笑)。
雨宮
 「オリンピックに協力しない奴は非国民だ」みたいな感じの「大義」系の空気って一番怖い。そのためには何を犠牲にしても無理をしろって圧力は、今後三年間無茶苦茶強まるでしょうね。
今野
 ブラックオリンピックにするなと呼びかければいい。少なくとも労災出すなと。
栗原
 クリーンなオリンピックに。
雨宮
 犠牲者を出すようなオリンピックなんて楽しめないみたいなやり方はいいですね。
栗原
 今度の臨時国会では働き方改革が出ると言われていて、一応長時間労働是正に向けた残業上限規制(例外的に繁忙期は月一〇〇時間未満)は出るようですが、他方でホワイトカラーエグゼンプション(成果に対し賃金を払う仕組み。残業代の支払いが免除されるため「残業代ゼロ」制度とも言われる)とか裁量労働制の拡大が一緒に出てくるということなので、かなり長時間労働を促進する法律だと思っています。

ですから、そこへの反対運動として、九月二四日(日)に新宿中央公園でデモを予定しています。裁量労働制は結構悪用されていて、そこはPOSSEとも連携してやっていきたいなと思っています。(九月二四日のデモにはおよそ二〇〇人が参加。エキタスはリーフレット“働き方改革のひみつ”を沿道で配布した)
今野
 裁量労働制は違法行為が多いし、ホワイトカラーエグゼンプションも実際には裁量労働という名前ですごく広がっています。そこで、裁量労働を冠したユニオンを作って問題化していこうとおもっています。(「裁量労働制ユニオン」は九月八日、ゲーム会社の裁量労働制の不適切な運用について記者会見を行った)
生活保護の原則 ハードワーキングプア

今野
 悲惨な状況に慣れてきちゃってる感じは確かにあるんですけど、エキタスが最低賃金一五〇〇円と言うと街頭の人たちは共感するわけで、慣れてるように見えて声が潜在化しているんだと思います。

何かの事件で一気に大問題になるんじゃないかと思ってますし、そういうことを運動で仕掛けて行くのも大事です。派遣村のときのように雪崩を打ってくるようなことがまた必ずくるでしょう。
栗原
 「#最低賃金一五〇〇円になったら」のキャンペーンもあんなに広がると思っていなかった。何かの呼びかけや言説があると予想外に広がる土壌があるなというのはたぶんそうですね。
雨宮
 これからどういうことがあり得ると思いますか?
今野
 次の経済危機がやってくるときに一番危惧しているのが、生活保護の原則すら破られてしまうことです。

今も補足率がすごく低くて、貧困者が水際作戦で追い返されている状況です。でもそのうちに財政難だから、生活保護を切りますよ、法的に保障しませんということをやりかねない気がするんです。
雨宮
 世論も全然反対しないでしょうしね。
今野
 そのときには、まさに「生存権」の必要を社会運動で表現をしないといけないんじゃないかと思います。そういう状況が来ちゃうんじゃないかということを今一番危惧していますね。
雨宮
 そうなったときにどんな対抗策を打つか準備しておかないといけないですね。でなければ餓死者や凍死者、自殺者を出してしまう。
栗原
 そのときのためにも、最低賃金一五〇〇円にしろ、それが当たり前なんだという世論をもっと広げておくことも大事ですよね。生活保護の問題が社会的に支持を得る土壌を作るという意味で。
今野
 働いている人が生活保護以下になるから、バッシングが起こってしまうのです。だから、働いている人が最低生活費以上になるための運動と、貧困運動はセットで闘わねばなりません。
栗原
 例えば福祉国家のような政策パッケージを打ち出したら広がる土壌はあるんじゃないかなと思ってたりするんですが、どうでしょうか。

住宅政策であったり、奨学金、最低賃金、失業保険であるとか。
今野
 みんな想像もつかなくされちゃってるんですよね。もっと想像力を広げて政策を提案していけば、支持を得られる可能性はある。繰り返しになりますが、生活保護の人とか困窮者と働いている人が対立させられる構図があって、そこがいつも分断される。働いていても貧しいワーキングプアの運動と、貧困に立ち向かう運動はもっとつながっていかなきゃいけないでしょうね。

本書ではじめて活字にしたのですが、今はワーキングプアではなくて、「ハードワーキングプア」の状況があって、対立はさらに強まっています。
雨宮
 それを今日聞きたいと思っていました。プアがハードなんじゃなくて、ワークがハードということですか?
今野
 ワークがハードなんです。ハードワークしていてなおかつプアってひど過ぎるだろうと。そういうひとが「生活保護は甘えている」となりがちなわけです。
栗原
 確かにワーキングプアというと、労働現場での責任はそんなに重くないんじゃないかというイメージがありましたよね。
今野
 昔の非正規のイメージですよね、細切れ雇用とかで。細切れどころか死ぬほど働かされてて、なおかつプア。
栗原
 学生バイトでもそうで、「俺、今日の朝倒れて授業遅刻した」とか言うんですよね。聞いたら一ヵ月休みなくバイト入ってたとか。非正規は無責任みたいなこと、どこ見て言ってんだと。バイトの合間に授業で、授業は寝る時間みたいな。
雨宮
 いつでも休めるみたいなイメージで見られてるんですね、いまだに。

奨学金背負って、大学に行ってるのに、本当に勿体ない話ですよね。
今野
 反貧困の運動に、最低賃金一五〇〇円が入ることでそういう人たちのリアリティと貧困が結びつく。一五〇〇円は分断を乗り越えるスローガンだと思います。
栗原
 エキタスにはそういう問題意識で来ている人も結構いて、反貧困から社会運動に入ったという人もいるんです。そういう人たちが社会運動につなげる為の一五〇〇円なんだみたいな。「家賃下げろデモ」みたいないろいろなイシューで出て来てほしい。それで一緒にやりたいですね。
シニア世代も立ち上がれ

雨宮 処凜氏
雨宮
 本書の中で小林俊一郎さんがロスジェネとゆとり世代の違いについて、かつての「豊かな日本」社会をロスジェネ世代は奪われて、ゆとり世代は与えられなかったと書いていますが、私はまさにロスジェネ世代でものすごい剥奪感と怒りがあるわけですが、最初からなかった世代はどうなんですか? 「豊かな日本」を知りもしないわけですよね。
栗原
 知らないですし、豊かな日本が良かったかというと、そうも思わない。長時間労働はあったようですし。(僕らの世代は)みんな表面上は平気な顔してるんです。過労で倒れて遅刻しちゃいましたみたいな人もヘラヘラしていて、「労基署行ったら?」と言っても、「ヤバくなったら行く」とかって。剥奪されたというより当たり前という意識があって、そういう意味では運動につながりづらいという状況はありつつ、みんな当たり前という世代的な状況は共有しているので、そこを問題化できると広がるのかなと思います。一部の人だけの問題じゃなくなっていますから。
雨宮
 でも、ゆとり世代やさとり世代に対して、「今の若者は幸せなんだ」「若者はスマホがあればいいんだ」とかって、若者じゃないおじさんがよく勝手に代弁してるじゃないですか(笑)。古市憲寿さんの『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)のイメージでそんなこと言って「今の若者は幸せだから何もしなくていい」とか。そこらへんはどう思いますか?
栗原
 幸せだと思わないとやっていけない側面がありますよね。幸せですという言葉自体が相当ねじれている。
今野
 後藤和智さんが紹介しているように、古市さんに限らず無数に若者論はあって、おじさんたちは自分たちの気持ちのいい物語を受容しているんです。
雨宮
 結局自己責任で片づけてしまえる若者論が都合がいいわけですね。これだけ酷くなるまで放置したのかと自分が責められずに済む。
今野
 僕は『ブラック企業』(文春新書)や『ブラック奨学金』を書き、たくさんの講演に呼ばれるようになりました。講演の参加者は中高年が多いですし、企業経営者の集まりに呼ばれることもあります。私が訴える実情に対して、普段は「ブラック企業って甘えでしょう」とか、「奨学金だって借金なんだから返せ」といってるだろう人たちも、実態を聞くと驚愕して態度が変わるんです。いつも自分の気持ちのいい情報だけ摂取して、本当に実態を知らないだけなんです。
雨宮
 アルバイトの責任が軽いと思い込んでるのもそうで、自分の八〇年代くらいのバイト経験でものを言っている。
今野
 僕も『ブラックバイト』(岩波新書)という本を書いたとき、相当言われました。昔もそういう奴はいたって。そりゃあ、中にはいるんだろうけど、「俺の友達は大学行かずにバーテンダーになった」とか武勇伝みたいなことを話し始めて(笑)。学費もその時代は半分以下ですしね。
雨宮
 昔は一年の半分を工場で働いて、あとの半分は海外に行ってたとか聞きますが、今半年働いたって絶対に海外で放浪なんてできないじゃないですか。
今野
 今の学生は高い学費を払わなきゃならないし、昔は就職できましたしね。
栗原
 奨学金を山ほど借りていざ就職しようと正社員になってもパワハラされてやめちゃいましたみたいなのはザラです。
今野
 とにかく、世代間の分断の原因は、そもそも知らないことにあります。新入社員が入社四ヵ月で過労死した「日本海庄や」の話を聞いて驚かない人はいない。月給十九万四五〇〇円で残業代八〇時間込み、これが一流大企業の正社員の実態ですというと、そんなのあるのかと。奨学金も取り立てられて自己破産が毎年六〇〇人以上いますよとか、旧育英会が年に八〇〇〇件以上裁判を起こしているのも知らないし、さらにその取り立ては保証人のあなたたちのところにも行くかもしれませんよと言うと、慌てはじめるわけです。
栗原
 事例を社会問題化していく運動が大事ですよね。
今野
 社会問題化しても読みたくないから読まない。特に六〇代以上がヤバイと思う。まだ四〇代、五〇代は子どもがいるから、自分の子どもの奨学金とか非正規やブラック企業に就職してしまったらと心配になって記事を読んだりするんです。僕の本も一番読まれたのが四〇代、五〇代の男性でした。それより上になると別世界で、今ネット右翼になるおじいさんが多いらしいじゃないですか。定年後ネットばかり見てるから、どんどん現実から離れていく。
栗原
 子どもが非正規だと、『下流老人』(藤田孝典著/朝日新書)みたいになる。
今野
 昔運動をしてたシニア世代が、SEALDsとか若者に期待するという話があるけど、年金や社会保障、介護保険といった自分たちのかかわる問題について、自分たちで組織してシニアの活動をやってほしい。
栗原
 年金を増やせとか介護保険とか、若者が共感すると思うんですよね。若者も自分のおじいちゃん、おばあちゃんとか問題意識を持つ場面が増えているので、そういう運動を始めたら広がる土壌はあると思うんです。
今野
 介護で連帯出来る気がする。介護労働者と介護で離職しかねない若者と介護を受けたい高齢者、ここで連帯する可能性はありますよね。いざ親が介護になったとき、この脆弱な介護保険にびびってる若者も多いと思う。シニア世代が立ち上がって自分たちの介護をよこせと、労働者や若者に迷惑かけるなと立ち上がったら面白い運動になるでしょう。
雨宮
 でも自分だけは絶対に要介護状態にならないと思い込んでる高齢者も多い。
今野
 立ち上がるリーダー的な老人が出てこないですかね。
栗原
 介護労働者から出てくるかも知れないですね。エキタスも若者の問題だとされがちですが。
今野
 若者に期待するんじゃなくて若者と一緒に闘ってほしいですよね。
雨宮
 七〇代、八〇代の人だって、低年金の人は深夜のコンビニで最低賃金で働いていますからね。
今野
 彼らだって最低賃金一五〇〇円になったら何とかなるし、国民年金だけでは絶対生きていけない。そういう人からすれば一五〇〇円は全然リアリティがある。
栗原
 これまで若者が前に出てやっていましたが、そういう打ち出しも必要ですね。
今野
 デモにカッコいい老人が出てきたら面白い。昔話ではなく、「今の問題」、「共通の問題」を熱く語れるおばあさん、おじいさんを探そう!

当事者意識とユニオン運動

栗原
 それと、最低賃金一五〇〇円になっても、パワハラとか、それこそ最低賃金一五〇〇円をどうやって守らせるのかとか、ユニオン運動が強くなっていかないといけないと思っています。

なので、POSSEの今野さん、反貧困ネットワークの雨宮さんと一緒にこの本を作ったんです。エキタスの側もユニオンに呼びかけたり、発信を強くしたりもしているのですが、エキタスを打ち出してデモをやると労働問題の当事者じゃなかった人からもユニオンに行こうかなという人が出てきて、実際にユニオンに入って団体交渉してる人もいます。
今野
 それはある意味、日本の労働運動の歴史の負の部分でもあって、「民主主義は工場の門前で立ちすくむ」といって昔から指摘されています。

労働組合も職場で闘わず路上に出てきてしまうところがあって、路上では民主主義と叫び、会社に足を踏み入れた途端に治外法権みたいになっていて殴られても文句言えないみたいな。そもそも長時間労働だとデモに行く時間もない。社会運動、民主主義みたいな運動が、職場や自分たちの生活の、自分の身の回りの権力関係を変えることとつながっていくような市民運動になれば、歴史的に一歩進むという感じになると思うんです。
栗原
 最低賃金一五〇〇円を路上でユニオンでやるというのは日本の状況では無理で、だからユニオンではなく市民運動でやる必要があるとエキタスを作って始めた。そういう問題意識があったので、ユニオンがもっと強くならなくてはいけないと。
今野
 歴史的には最低賃金運動と労働組合運動は必ずしも一致しません。最低賃金を国が補償すると、ユニオンに入らなくてもいいということになるので、歴史的には組合が反対する場面もある。だけど日本の場合は、最低賃金運動で最賃を上げた後、絶対守らない企業が出てくるから、その違反状態を組合が闘っていくという形で、組織化にむしろ利用できると思うんです。
栗原
 僕らが最低低賃金一五〇〇円を打ち出したら、保育ユニオンが保育最賃は二〇〇〇円だみたいなことを言い始めたり、生協労連が最低賃金一五〇〇円のデモをやってくれたりしています。ユニオン運動、労働運動、エキタスを起爆剤にして、盛り上げていきたいですね。

(おわり)
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2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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この記事の中でご紹介した本
エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ/かもがわ出版
エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ
著 者:今野 晴貴、雨宮 処凜
編 集:エキタス
出版社:かもがわ出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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