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八重山暮らし
2017年10月3日

八重山暮らし⑪

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祭祀の場でも多くの歌と出合う。西表島祖納の豊年祭にて。 (撮影=大森一也)

歌の島

「むかしからのうたが、わたし…、すきなのよ…」

幼稚園の帰り道、習ったばかりの八重山民謡を娘が口ずさむ。テレビの流行りの曲よりも、そこはかとなく余韻を残す旋律が、小さな歩幅に不思議と馴染んでいる。

発する言葉の一音、一音を咀嚼するように娘は朗々と歌う。歌詞の意味などわかっていない。ゆるやかな曲調そのものを愉しんでいる。歌に身をゆだね、やがてひとつとなる心地よさが傍らにいて伝わってくる。

綿々と歌い継がれてきた八重山の民謡を耳にすると、郷愁をない交ぜにした情感が胸に迫り、なぜかしら切なくなる。それは南国の熱く湿り気を帯びた空気そのもの。今なお、島の言葉で歌われ、いや島言葉だからこそ、時代のお仕着せを取っ払い、思いのたけを込められる。

日頃は、伏し目がちの朴訥な男も、三線(さんしん)の軽やかなつま弾きに誘われると厚い肩が揺らめく。島の酒、泡盛を酌み交わしつつ歌いだす。小さな孫も両手を挙げて飛び跳ね、茶の間はにわかにさんざめく。「歌三線」と共に夜が深くなる。

この世のものとも思われない瑠璃色の海と暮らすように、想いを託す歌の在る日常が感性の素地となる。島の子の遺伝子には、南国の調べが染み通っている。「歌の島」といわれる八重山が抱く十全な幸福感を幼い娘の節まわしに見つけた。
2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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