観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い / 亀田 俊和(中央公論新社)空前の室町ブーム  新たな時代像を描き切る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月2日

空前の室町ブーム 
新たな時代像を描き切る

観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い
著 者:亀田 俊和
出版社:中央公論新社
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いま、室町時代が熱い。清水克行・高野秀行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社インターナショナル、二〇一五年)がひとつの導火線となって、呉座勇一『応仁の乱』(中央公論新社、二〇一六年)が爆発的な売れ行きを誇り、垣根涼介『室町無頼』(新潮社、二〇一六年)も直木賞候補となるなど、現在、空前の室町ブームが到来している。その理由はさまざまいわれているが、大前提として、近年における室町研究の飛躍的な進化があることは言を俟たない。それは、二〇一六年に完結した『岩波講座日本歴史』で、桜井英治が近年の動向について、「室町幕府研究の深化が顕著」と総括したとおりである(第六巻中世一「中世史への招待」岩波書店、二〇一三年)。かかる研究の新旗手たちこそ清水・呉座であり、そしてこの本の著者・亀田俊和である。

著者は直近、『南朝の真実』(吉川弘文館、二〇一四年)・『高師直』(吉川弘文館、二〇一五年)・『高一族と南北朝内乱』(戎光祥出版、二〇一六年)・『足利直義』(ミネルヴァ書房、二〇一六年)・『征夷大将軍・護良親王』(戎光祥出版、二〇一七年)を立て続けに上梓し、その都度我々の常識に再考を迫る斬新な人物像を示してきたが、本書はかかる成果を存分に発揮して新たな時代像を描き切ったものである。直義(足利尊氏弟)・師直(足利家執事)を論じた著者による観応の擾乱(十四世紀中葉、「直義」と「尊氏―師直」の争乱)像なだけに、期待しないわけにはいかない。

本書は全部で七章構成となっている。第一章「初期室町幕府の体制」は尊氏・直義・師直三者の基本属性が論じられたもので、直義と尊氏―師直にははやくから決定的な対立があったとする通説に疑問が投げかけられる。第二章「観応の擾乱への道」から第六章「新体制の胎動」は本体となる部分で、乱の経過が時系列に沿って詳述される。終章「観応の擾乱とは何だったのか?」は乱の原因に迫ったもので、本書の肝といってもよい。著者は直義と尊氏―師直が突如対決に至った事情を、保守的な前者と革新的な後者という政策の違いにではなく、足利直冬支持の前者と足利義詮支持の後者という尊氏後継をめぐる政局に求める。そして、乱中勝者が極端に交代するも結局直義・師直ともに滅びた理由を、どちらも支持者の期待を裏切る政策をとった点に求める。その上で、最終的に尊氏―義詮が広範な人々の願いに迅速・確実に応える政策を打ち出した結果、多数の信頼を得ることに成功したとして、彼らに政権担当能力を身につけさせた点に乱の意義を見出す。今の日本を生きる我々にとってどこか既視感のある光景だが、現代社会にも関心を持つ著者が、過去は現在のヒントになると「あとがき」で触れた点は、思わずはっとさせられた。

以上のように、本書は通説に真っ向から挑み、新たな枠組の構築に迫ろうとした意欲作である。ゆえに、著者の新説については今後議論が予想されるが、他方、乱の中身をここまで具体的かつ平明に描いた著作は他に見当たらず、本書を乱に関する必読文献としようとした著者の強い思いは達成されたのではないか。乱の経緯を整理した価値は極めて大きい。もう一点、「観応の擾乱」という特異な歴史用語それ自体の来歴に迫った箇所も注目に値する。歴史用語は自明視されがちであるが、所詮研究者の産物にすぎない以上、それの孕む問題(政治性・ミスリードなど)には敏感であるべきだ。著者の姿勢に賛同する。他方、著者に期待したいのは、『太平記』諸本の分析だ。著者は西源院本を用いて筆を進めるが、神宮徴古館本など他写本ではどうなっているか気になった。軍記研究と歴史研究は対話が不足していると感じるが、『太平記』史観が鋭く批判されている現在、相互の交流は必須で、著者こそその牽引役に相応しい。今後の展開に目が離せない。
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2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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観応の擾乱  室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い/中央公論新社
観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い
著 者:亀田 俊和
出版社:中央公論新社
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