戦争をよむ / 中川 成美(戦争をよむ)「文学は戦争とともに歩んだ」  現在の状況でまさに時宜を得た刊行|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月2日

「文学は戦争とともに歩んだ」 
現在の状況でまさに時宜を得た刊行

戦争をよむ
著 者:中川 成美
出版社:戦争をよむ
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戦争をよむ(中川 成美)戦争をよむ
戦争をよむ
中川 成美
戦争をよむ
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政権を構成する人たちの戦争とりわけ「負」の歴史認識に対する無知・無恥への怒りから読書から得た知識を自分の目・肌で感じたくて、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所をはじめとして、韓国・旧満洲・台湾・ロシア(樺太)などへの旅をこのところ続けている。わけても一人旅をも含めて二度行ったハルピンでの七三一部隊は、数の上では遙かに少ないが、惨虐さではアウシュビッツの比ではない。戦争は人間を容易に悪魔に変えてしまうものなのだ。

非戦を誓った憲法を歪曲して、現政権は戦争の出来る国へとひた走っている。募る不安と恐怖の現況での本書の刊行はまさに時宜を得たものといえる。

七十冊は林芙美子の『浮雲』(1953年刊文庫)から津島佑子の『半減期を祝って』(2016)まで。そこには、私の知らなかった外国文学がかなり収められていて、中川さんの面目躍如であり、そこが本書の特色にもなっている。

戦争を読むのは何故か、「文学は戦争とともに歩んだ」(「まえがき」)からで、本書掲載はいわゆる十五年戦争について、戦後刊行作に限定されている。構成は、「戦時風景」「女性たちの戦争」「植民地に起こった戦争は――」「周縁に生きる」「戦争責任を問う」「いまここにある戦争」の六章から成り刊行順ではない。トップは秋声の「戦時風景」で、例外として秋声は「勲章」と二作が挙げられている。文芸統制の強化下にあって時流に迎合すること無く黙々と生来の執筆姿勢を崩さず、秋声文学の集大成となり得ただろう「縮図」は軍情報局の弾圧によって連載を中断させられた。時勢を憂慮しつつ敗戦を知らずに秋声は世を去った。著者は、「彼の創作姿勢こそが見事な抵抗であった」と述べているがその通りでトップにふさわしい配置だろう。戦争文学は軍事作戦や部隊名、人間を書いてはならぬと言う軍の制約があった。人間を書かぬ文学などあり得ない。石川達三の『生きている兵隊』は人間を描いたがために発禁となった。戦時下は文学不毛の時期となる。

戦後生まれの古処誠二の『接近』は、資料を素材として描いた世界というが圧倒的なリアリティに満ちていて「戦争を思考させる」と著者はいう。その通りだった。戦争を知らぬ作家は他にも挙げられているが目取真俊の『水滴』は発表時に読んで衝撃的感動を受けた。未読の反イスラム作家というミシェル・ウエルベックの『服従』や、伊藤計劃という作家の『虐殺器官』は読まねばなるまい。伊藤作は一種のSF小説の範疇に入るのかもしれないが彼の描く未来社会は背筋が凍る。個別作に触れる紙幅は無い。最期に置かれた津島佑子の『半減期を祝って』は三〇年後の「ニホンが舞台」で、戦後百年のお祭りで「セシウム137」が半減期に入ったというアナウンスが流れる。「体内被曝」核のごみ問題は解決されていない。独裁政権が人民を監視する国防軍の幹部候補になる十四歳から十八歳の男女によるASDを発足させる。純粋なヤマト人種だけが入団を許されアイヌ・オキナワ・トウホク人は排除される。日本会議が勢いづいている現況を先取って痛烈に批評した作品とも読み取れて、死を目前にしながら鋭い先見性に津島の見事さを改めて思う。戦争謳歌の戦時下作・南京事件他・治安維持法・七三一部隊・強制連行・慰安婦等々、読んで知らねばならぬ「戦争」は七十冊の百倍以上もあるだろう。書き継ぎの一端に私も加わりたい。
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2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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