声なき人々の戦後史 (上) / 鎌田 慧(藤原書店)変革を模索するマグマが噴出  社会に問題を投げかけた反逆のルポ50年|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月2日

変革を模索するマグマが噴出 
社会に問題を投げかけた反逆のルポ50年

声なき人々の戦後史 (上)
著 者:鎌田 慧
出版社:藤原書店
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これは鎌田さんの仕事(ルポルタージュ)史である。戦後、“豊か”になり、一億総中流と多くの人が思い込んでいた日本。その裏側で貧しい労働現場の実態、企業へのしがらみで公害の実態も口に出せない人々、差別で人権無視の被害にあう人々…。声の出せない人々の立場にたつルポを書き続け、社会に問題を投げかけた。反逆のルポ50年。これはまさに、そのまま「もう一つの日本の戦後史」だと思った。

鎌田さんは、弘前の高校を出て、上京して工場で働く。印刷工場で組合を作り賃上げ闘争をするが偽装解散全員解雇、その撤回闘争を通じ、文章で社会問題に関わろうと早稲田大学露文科に入学したのが1960年。安保反対闘争のデモにも行ったが、大学の生活協同組合のニュース編集の仕事をしたのが「物書き」の基礎となっているようだ。

その後、業界紙(鉄鋼新聞)、月刊誌(新評)の記者を経て、30歳でフリーのルポライターとなる。対馬の鉱山の「隠された公害」の現場報告をする。企業の切り崩しで労働者も地元農民も物が言えず、泣き寝入りの状況にあるのを掘り起こし、汚染田の完全覆土までこぎつける。「書き続けることの意味」を理解し、ここから原発につながる「開発」の問題点も知る。このころから40年以上も六ヶ所村に関わり続けている。
鎌田さんの作品でまず有名になったのは労働の現場の実態のルポだが、現場に入り、自分でその労働を体験し、書く。『自動車絶望工場』は1972年トヨタの季節工になった実体験だ。時は高度成長期、トヨタは、驚異的な日本経済驀進の先頭に立つ企業である。だがその労働の実態は、ベルトコンベアーの前で5時間ハンマーを振り回し、手首や指が痛み、日記も書けないほどだ。仲間は数日でやめてゆく。青森で一緒に応募し友人になった青年は夜勤の仕事中に意識を失って倒れ、そのままクビになる。鎌田さんは期間満了まで働くが、人事の人の話では、満期まで働いたのは鎌田さんひとりだったらしい。

鎌田さんは日記をそのまま本にして出版し、大宅壮一ノンフィクション賞で、最終選考まで行くのだが、審査員に、取材がフェアでない(潜入取材)とか、自己体験だけだという批評をされ、賞をもらえなかった。しかし、潜入した自己体験でなければ、コンベアに振り回される労働のきつさ、実態が分かるだろうか。きれいごとの「ノンフィクション作家」でなく、「ルポルタージュライター」という(下巻15章)鎌田さんのこだわりは、このあたりから来ているのかも、という気がする。

その後も、教育の現場(管理教育、いじめ)開発と原発、労働現場の人権侵害(国鉄民営化と国労いじめ)、悪政(成田、沖縄)、そして暗黒裁判と、ありとあらゆる「問題」に突き進んで行く。一つ一つ紹介する紙数がないのは残念だが、そのどれもが弱いもの、切り捨てられたものの立場から、差別に怒り、変革を模索するマグマが噴き出ている。

最後に、この本の成り立ちを、下巻の一番最後のあとがきで「聞き手」の出河雅彦さんが書いている。出河さんが朝日新聞青森総局長だった2014年3月から2016年3月まで、朝日新聞青森版に、インタビューによる「ルポライター鎌田慧の軌跡」に加筆したのがこの本というのである。これも驚きである。郷土の出身者だが、一ルポライターの足跡を連載(88回も)するなど、新聞の常識では考えられない。それに鎌田さんは原発の問題などで朝日新聞の有名記者と相当やりあった人でもある。青森版という地方版だからできたことかもしれないが。現役の新聞記者にもすごい人がいるな、と感心した。
2017年9月29日 新聞掲載(第3208号)
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この記事の中でご紹介した本
声なき人々の戦後史 (上)/藤原書店
声なき人々の戦後史 (上)
著 者:鎌田 慧
出版社:藤原書店
以下のオンライン書店でご購入できます
声なき人々の戦後史 (下)/藤原書店
声なき人々の戦後史 (下)
著 者:鎌田 慧
出版社:藤原書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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