作家・はあちゅう氏に聞く  『通りすがりのあなた』(講談社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 特集
  3. 作家・はあちゅう氏に聞く  『通りすがりのあなた』(講談社)刊行を機に・・・
読書人紙面掲載 特集
2017年10月11日

作家・はあちゅう氏に聞く 
『通りすがりのあなた』(講談社)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
一見白かと思えるような淡い桜色のページに、紺青のインクの文字が浮かび、優しさと切なさを視覚的表現したような作りが印象的な本である。さまざまな媒体を横断して活躍する、ブロガーで作家のはあちゅう氏の初の純文学小説集『通りすがりのあなた』が講談社から刊行された。今年の「群像」2月号に掲載された3作品に書き下ろし4作品を加えたこの小説集は、他人からは見えにくいが、生きづらさを抱えた女性たちと、まさに「通りすがり」だが、かけがえのない相手との一瞬を描いている。刊行を機に、作品について、そしてオンラインサロンを起ち上げて、読者とともに販売戦略を練るという試みについて話を伺った。(編集部)

はあちゅう氏
――はあちゅうさんは30歳までに純文学デビューすることにこだわっておられたそうですね。
「昔から作家に憧れていて、本を書く人になりたいと思っていたのですが、当時の私の認識では小説を書く人=作家というイメージだったんです。その憧れの『作家』という肩書きに近づきたいこともあって純文学デビューは悲願でした。とはいえ純文学は私にとっては特別かつ苦手科目でもあって、以前に書いた『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月』という小説を書いた時も、作品自体は気に入りつつも、本当は私は純文学を書きたかったんじゃないか、逃げているんじゃないかという後ろめたさがありました。私はいま〈ブロガー・作家〉という肩書きで活動していますが、純文学を書いていないと、作家という肩書きを名乗る時に後ろめたいので、早く書かなきゃと思っていたんです。もともと私は高校時代から文学賞などに応募していたのですが、ネットでいろいろ雑文を書くようになって、そちらから先に出版デビュー出来たタイプです。そのせいで、どんなに本を出してもネットから出てきたチャラチャラした小娘だと見られることが多いように感じます。そんな空気の中で私が肩書きに作家と付けているのには意味があって、文章を書いて生きて行くにはこういう方法もありますよという、ネット時代の新しい作家の生き方を探りたい、と思っているからなんです。ただ、その思いはたんに肩書きを名乗っただけでは伝わりませんよね。真剣に文章を書いて生きていきたいと思っているのに、知名度を上げるために本を片手間で書いているとか、単なるお金儲けの手段として書いているとか思われるのがすごく嫌でした。それもあったのでいつか純文学を書きたいと考えていました。30歳ぐらいでというのは、なんとなくそこが節目かなと。」

――『通りすがりのあなた』という書名は収録作品からとられたものではなくて、全体を表すようなタイトルですね。どの作品もこの書名が示すように、小説の中では主人公と一番深く関わってくるけれども、その先は二度と会うことがないだろうと思わせる人たちばかりです。
「いまこの一瞬の出会いにフォーカスを置いていて、継続する人間関係だったり、絆で結ばれた人間関係ではないですね。でもそういう人間関係に意味が無いのかといったら、実はそれが人生に与えてくれる影響は大きい気がします。それを描いてみたかったんです。もしかしたらあの人が運命の人だったかもしれないという気持ちを、全ての人に対して持って生きていけたら素晴らしい人生になるんじゃないでしょうか。この本に登場するのは全員通りすがりの人ですが、じゃあ意味がなかったかというと、おたがいの人生にとって記憶には残らないかもしれないけれど、大切な一瞬だったかもしれない。人間って出会った人の要素の寄せ集めで、私が私として持って生まれたものってほとんどなくて、本当に些細な出来事の積み重ねで自分の人生が出来ているから、どんな人でも出会った意味はあったと思うんです。読んだ人もそう感じてくれたら、この本はすごくうまくいったといえると思います。」

――そのような関係の中からそれまで見えていなかったものが見えてくる感覚が描かれているようです。
「私は規定の枠の中に入れない人生がすごく長かったんです。まあ今でもちょっと枠の外にいるのかもしれませんが、どこか常に世界からのけものにされているような感じがあって、自分は何者なんだろうということはすごく考えていました。でも、自分側から見えているものって一面的な自分の決めつけであって、環境が変わると全然別の意味を持ってくるんですよね。自分というものがすごく確かなもので、自分自身のことはよく知っていると思っていても意外に脆かったりして、自分の見え方なんて環境ですぐに変わってしまう。だから確かなものなんて何もないんだよと。」

――そうした思いは小説のほうが表現しやすかったですか。
「しやすいというよりも、私が小説を書いたらこういうふうになるんだというのが自分の中での新しい発見でした。私が伝えたいのはこういうことだったんだって、読み返して気づくことが多かったです。私は普段ネットではどっちに行っても否定されるみたいなことで長い間苦しんでいたんですね。その苦しさをメッセージとして誰かに分かってもらいたい、伝えたいというのが小説になったんだなと思えたのは自分でも意外でした。」

――たしかにこの中の主人公たちはそれなりにいい学校だったりいい会社に勤めている人たちですが、だからこそかえって見えにくい生きづらさを抱えているようですね。
「そうなんです。見た目には豊かに見えるからこそ生きづらい部分もあると思うんですよ。それがいまの日本の自殺率の高さなどにもつながっているのかもしれません。私自身もこの本で答えが出せたわけではありませんが、一見うまく行っているように見える人でも、見えないところで葛藤や生きづらさを抱えているんだと言いたかったのかもしれません。」

――二作品の中で出てきますが、生涯に一度限りのヘルプというのも印象深いですね。
「何でもない自分とか力のない自分でも、誰かの神様になることは出来るんですよ。たとえば私の母はこの広い世界から見たらただの主婦で、いるかいないかで世の中が変わったりはしないでしょうが、私にとっては私の全人生を支えてくれる神様であるように、知らず知らずのうちに誰かの神様になっている人っていると思うんです。そういった普段は見えない愛おしさに気づけたら、みんなちょっと強くなれるんじゃないかなとも思っています。誰かの神様にあなただってなれるんだよというメッセージは、この本の中で伝えたかったことの一つですね。死にたい気持ちを抱えている人でも、そんなあなただって絶対に誰かの役に立っているよというメッセージは入っています。この本が誰かにとってそういう存在になったら嬉しいですね。」

――今回は、この作品集のために作られたオンラインサロンに集ってくれた参加者に、プルーフを送って感想を書いてもらったり、この作品をどのように世の中に広めていくかいろんなアイデアを出してもらったりしているそうですが。
「書籍は完成品として書店に並べられるものですが、ネットではそのプロセスを見せることが出来て、それを面白いと思ってくれる人がいます。それを使わない手はないということで、過程を全部公開しようと思ったんです。もともと書籍の宣伝スパンの短さはなんとかならないかなとずっと思っていて、それだったらということでオンラインサロンを作って、その中でみんなが話題にしてくれたり、私自身も自分がやっていることをみんなに届けることで発売までの宣伝期間を長くする効果を狙いました。そして9月26日から10月3日までのあいだに、『通りすがりのあなた』とのコラボ企画として、7人の素人のクリエーターさんたちとの試みをしていて、この小説をもとにした写真やアクセサリー、テディベアだったりといったものを作ってもらっています。そうやって共犯者を増やしつつ、かつ接触ポイントを増やして、本屋さんに行かない人にも関心を持って欲しい。小説が立体的に届けられる試みを昔からやりたかったのですが、今回それが実現出来ました。もちろん私自身、クリエーターさんたちはこういうふうに解釈してくれたんだとかいった、それぞれのアウトプットが楽しみなんです。オンラインサロンの中では6年ぶりに本を読みましたという方もいらっしゃいました。それはいままで私が10年以上活動してきたネットでの試みがあったから取り込めた人だと思うのですが、そういう人たちのほうが、たぶん私たちよりも小説を読まない人への届け方のヒントを持っていると思うんです。そうした人たちが言った何気ない言葉が結びついて新しいアイデアになると思うし、そのようにしてこの本を媒体にいろんな人とのコミュニケーションを増やせたらなと思っています。」
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事の中でご紹介した本
通りすがりのあなた/講談社
通りすがりのあなた
著 者:はあちゅう
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 人生関連記事
人生の関連記事をもっと見る >