水曜の一限静かにすぎてゆくパソコン室に差し込むひかり 小島なお『乱反射』(2007)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね 第50回
2016年8月19日

水曜の一限静かにすぎてゆくパソコン室に差し込むひかり 小島なお『乱反射』(2007)

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高校生歌人としてデビューした歌人の作品である。早朝の学校の、何気ない一瞬に走る「ひかり」を捉えてスケッチしてみせた表現は、青春という短いきらめきを切り取って写真に収めたかのようで実に鮮やかだ。

しかしこの歌、はっきりと奇妙なところがある。舞台として描かれているのが教室でも体育館でも美術室でもなく「パソコン室」であることだ。学校に当たり前にパソコン室が設置されるようになったのは、決して大昔の話ではない。学校にパソコン室があること自体がSFめいて感じられる世代もいておかしくないだろう。

体育館ならスポーツに青春を賭けた生徒がいて、図書室なら文学少女がいたりするだろう、といったようなベタな物語性も、パソコン室には内包されているとは言いがたい。いたとしてもせいぜいナード寄りの生徒だろう。つまり、パソコン室はベタな抒情性を見出しづらい空間であり、だからこそ歌人はあえてそこに静けさと光をセッティングしたのだ。これまでにも繰り返されてきたような余計な物語性からある程度自由になれている空間、そして作者自身にとってはもはやあって当たり前になっている空間。そういうものとして「パソコン室」を捉えてみたわけである。

コンピュータが社会に浸透し、現代短歌にも当たり前のモチーフとして登場するようになった時代。その時代の中で、歌人たちはコンピュータからいかにして新しい抒情性を見出だせるかと、日々格闘しているのである。

2016年8月19日 新聞掲載(第3153号)
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