働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」 / 川添 愛 (朝日出版社)流行に左右されない本質に読者を導く  お話と講義が交互に連なる豊かな本|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月9日

流行に左右されない本質に読者を導く 
お話と講義が交互に連なる豊かな本

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」
著 者:川添 愛
出版社:朝日出版社
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まずなんといっても見た目がかわいい。ゴム版画作家の花松あゆみさんの挿絵がユルい世界観を彩り、ユーモアあふれるお話とていねいな講義が交互に連なる。なんとも豊かな本だ。

主人公は怠惰で短気で生意気な――プログラマーの三大美徳を兼ね備えたイタチ村の住人たち。ある日、他の村で便利なロボットを使っているというのを聞きつけて「こちらの言うことが何でもわかるロボットを作ろう、そうすれば働かなくてすむ」と思い立った。それでいろいろなロボットを見に行くのだが、イタチたちはちっとも満足できない。

どうやら「言葉がわかる」というのは思っていたよりも難しいことらしいのだ。話を聞いて文字にできるだけでは「言葉がわかる」とはいえない。情報を検索して質問に答えることができても、それは言葉の「中」の世界だけのこと。「外」の世界はカメラで取り込むにしても、大量の画像を言葉と紐付けるのは大変だし、絵では表現できない概念もたくさんある。さらに言葉の意味は文脈によって何通りにも変化するので、理解するにはあらゆる常識が必要になる。

また一見言葉を解するように見える機械も、実は奇妙なしくみで動いていたりする。おしゃべりをするだけなら、中身がわからなくても適当に相槌を打つだけでそれらしくなる。単語の意味を扱うなら、文の中でその単語の周辺にどんな単語が現れやすいかをみるだけで、文法を考慮しなくても結構できてしまう。でもそれは「言葉がわかる」のとは別の営みだ。

大量データによる機械学習という現在主流の手法では、本当に「言葉がわかる」機械は実現できそうにないと本書の著者は考えている。「スマホでも話し言葉を認識する時代だし、言葉がわかる機械ぐらいディープラーニングでも使えばすぐできるはず」と高をくくっていると、イタチたちとともに森をさまよい続けることになる。いっぽうで、車がイタチとは違う方法でイタチより速く走るように、「わかる」のとは別の方法で上手に言葉を操る機械の可能性も見えてくる。

人工知能に言葉を教えることは、「天然知能」が無意識にこなしている言語活動と深く向き合うことに他ならない。イタチたちの右往左往は、言語理解をめぐる人類の歩みそのものだ。最先端の話題を扱いながらも、込みいった話はうまくかわして、「何がどうであれば言葉がわかっているといえるか」という、流行に左右されない本質に読者を導く。花も実もある素敵な一冊。
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2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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