市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成 / (洋泉社)深く、もっと深く――。映画本にふさわしい至福の視覚体験|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月9日

深く、もっと深く――。映画本にふさわしい至福の視覚体験

市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成
編 集:別冊映画秘宝編集部
出版社:洋泉社
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冗談だと思った。40年前の映画――『悪魔の手毬唄』だけで一冊の本が出るという。

市川崑監督×石坂浩二主演による名探偵・金田一耕助シリーズ第2弾、冬枯れの鬼首おにこべ村での猟奇殺人を描いた同作は哀切あふれる傑作との誉れ高いが、知名度は『犬神家の一族』のほうが上だろう。なにしろ角川映画の出発点だ。

しかし、「特撮秘宝」シリーズでさまざまな新事実を掘り起こしてきた別冊映画秘宝編集部は、あえて『手毬唄』を選んだ。A4サイズの大型本、まず目を引くのが、ふんだんに使用されたスチール写真である。

映画本編を模して、あるいは独自のアングルやポーズで切り取られた劇中シーン、撮影現場の様子を伝えるスナップ……父に次いで市川組に参加し、専属となった東宝のスチールマン・橋山直己の仕事が一望できる。まさに眼福。本編はもとより宣材にも時間をかけて大切にしたというビジュアリスト・市川崑の作品らしい、見事な写真群が端正にレイアウトされてよみがえった。

金田一シリーズといえば、明朝体を大胆に配した黒地に白抜きのクレジット。その実作業を担った合成技師・中野稔から始まるスタッフの秘話も濃い。ストーリーに則り、準備・撮影・仕上げという制作プロセスに沿いつつ語られる。

監督助手や撮影助手への取材では、事件の鍵をにぎる老婆おりんが三人一役であったことを突き止め、同一シーンでも「引き画はロケーション」「寄り画はセット」と場所を使い分けるような映画作りのトリックを解き明かす。また、あるメインキャストは、まさかの手違いで配役されていたという。

ずばり見せ場は娘たちの無残な死。“枡ではかって漏斗で飲んで”という滝壺の見立て殺人に体を張った高橋洋子、さらにはダミー人形を作った造形スタッフがディテールを証言。スチールやセットデザイン画に添えられた簡素な説明文にも取材の成果が散りばめられている。原作と脚本の比較はもちろん、横溝正史の小説を要約した市川崑直筆のメモまで。なんだ、この執念は……。

深く、もっと深く――。本書が生まれたきっかけに、いまだ衰えぬ金田一シリーズの人気がある。小谷充『市川崑のタイポグラフィ 「犬神家の一族」の明朝体研究』(水曜社)をはじめ、近年は映像版に特化した関連書籍の刊行が相次ぎ、ドラマでは長谷川博己主演の『獄門島』が新たな解釈を見せつけた。

20年前の迷宮入り事件をきっかけとした連続殺人を追って、金田一耕助は鬼首村内外を駆けめぐる。本書もまた、40年前の映画そのものを事件に見立てたミステリであり、名探偵よろしく執筆陣と証拠写真の数々が思わぬ真相へといざなう。映画本にふさわしい至福の視覚体験だ。
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2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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