都市と野生の思考 / 鷲田 清一(集英社インターナショナル)ネット時代の崩れゆく個人と社会に再生のヒントを与えてくれる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月9日

ネット時代の崩れゆく個人と社会に再生のヒントを与えてくれる

都市と野生の思考
著 者:鷲田 清一、山極 寿一
出版社:集英社インターナショナル
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大阪大学総長をつとめた鷲田清一氏(現京都市立芸術大学学長)と京都大学総長の山極寿一氏の対談。鷲田氏は哲学者、山極氏はゴリラの研究者である。

読むほどに、文系と理系の発想のぶつかりあいが見事に融合し、共感が生まれてゆく様を楽しめる。対立軸は、都市と野性。好むと好まざるに関わらず都市=現代に生きている我々と野性=原始的なるものとの対決でもある。

我々は科学技術をテコとして文明を発展させて来た。便利にはなったが、その中で失ったものも多い。時代の経過に応じて、価値観も習慣も変わる。我々はそのような社会で80年90年と生きねばならない。だから、長く生きているほど、価値観の転換に苦しむ。

だが、苦しむのは高齢世代だけではない。若い世代も戸惑っている。IT化の急速な進展によって、技術と社会の変化が加速しているからである。

こういうときこそ必要なのが、物事の本質を見る能力だ。

二人は熱く語る。
「大学教育のあり方」、「老いと成熟」、「家と家族の進化」、「アートと言葉」、「束縛があっての自由」、「深淵なファッション」、「食と性と禁忌」、「科学者のあり方」、「AIと科学者」といった9つのテーマを軸に、縦横無尽に「知」のあり方を語る。

国立大学総長でありながら、文科省が大学に課した成果主義を強い口調で批判する様はすばらしい。国立大総長という立場の学者が、こういう意見をお持ちと言うことは、日本はまだまだ健全だと言うことであろう。

印象に残る部分は他にもたくさんある。紙幅の関係で一部しか紹介できないが、例えば、ネット社会と知の関係が興味深い。

「図書館ができたことで人間の記憶力は落ちたけれども、創造力が高まった。計算機の発明も同じです。結局、人間の知的能力やセンサーはそれまで担ってきた責務を外されると、また新たな能力として使われるようになる。」(鷲田)

評者もまさにその通りだと思う。微分積分の数式を解くのは難しいが、PCでエクセルにやらせれば一発だ。人間はPCが出した答えを吟味するのに時間をさくことができる。これが本来の人間の仕事である。

本書のタイトルは、レヴィ=ストロースの著書『野生の思考』に「都市」を付け足したものだと著者(山極)は明かす。「野性=根源的」な思考こそが、この加速化する時代の変わり目に必要な事だろう。

軽妙な対話は読者を疲れさずに、やんわりと知の世界に誘い込んでくれる。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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都市と野生の思考 /集英社インターナショナル
都市と野生の思考
著 者:鷲田 清一、山極 寿一
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