アウシュヴィッツの囚人写真家 / ルーカ・クリッパ (河出書房新社)ルーカ・クリッパ/マウリツィオ・オンニス 著 『アウシュヴィッツの囚人写真家』 名古屋学院大学 織田 俊輔|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年10月9日

ルーカ・クリッパ/マウリツィオ・オンニス 著 『アウシュヴィッツの囚人写真家』
名古屋学院大学 織田 俊輔

アウシュヴィッツの囚人写真家
著 者:ルーカ・クリッパ 、マウリツィオ・オンニス
出版社:河出書房新社
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『アウシュヴィッツの囚人写真家』は第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ強制収容所に政治犯として実際に収容されていた囚人ブラッセ氏の体験を元にしたノンフィクションである。彼は捕虜になる前は写真家であったため、収容所の囚人の肖像写真を撮る必要があった親衛隊の命令によって四年間に渡り死にゆく運命にある囚人たちを撮影し続ける。デジタルカメラが主流の現代とは違い当時は写真撮影において専門的な技術が必要とされており、ブラッセ氏は写真家であるが故に囚人の一人でありながら親衛隊から多少の優遇を受けるという収容所では少し特殊な立場になる。本書はそんな彼の収容所生活が語られることで、一九四五年一月に収容所が開放されるまでのアウシュヴィッツの世界が描かれていることが大きな特徴だ。

普段は戦争を題材にした書籍や映画に触れない私のホロコーストに関する知識は皆無に等しく、戦時中のユダヤ人迫害と聞いて思い浮かぶのはせいぜい映画『戦場のピアニスト』のワンシーン程度だ。そんな私にとって戦争に対する認識を改める機会になったのが本書である。この本を読み始める前までの私は、収容所という地獄を生き抜いた方々はいつか戦争が終わって自由の身になれるという希望を持ち続けている人たちなのだと漠然と考えていた。しかし必ずしもそうではないようだ。ブラッセ氏は収容所の生活では故郷や両親はもちろん未来を想うことも避けなければならず、ただ一瞬一瞬を生き延びることが何よりも重要だと言う。収容所では労働力のない者は老若男女関係なく殺害され、時には親衛隊の医師によって人体実験の被験者にされることもあり、遺体を処分するための焼却炉からは常に黒い煙があがっていたそうだ。戦争を経験したことのない私には明日まで生きていられるか疑わしい状況などは簡単には想像できないが、ブラッセ氏が生活していた収容所では数分後に誰かが死んでいようが何ら不思議ではなかったのだろう。一瞬一瞬を生き延びることに集中するべきだと彼が主張するのも無理はない。平和な状況下では夢や希望を持つことは生きるうえで大切かもしれないが、刹那の判断力が求められる戦争では夢や希望といった存在が判断力を鈍らせる脅威になり得るのかもしれない。

本書では収容所内で行われた数々の残虐な行為が克明に描写されている。囚人たちは決して人としての扱いを受けることはない。動物実験で使用されるマウスの方がよほど大切にされているのではないかと思ってしまうほどで、本書を手にする読者はページをめくる度に居た堪れない気分になるだろう。しかしナチやホロコーストについて詳しくない人にこそ積極的に触れていただきたい書物である。戦争を肯定すべきものではないと考えているのなら尚更読むべきだろう。(関口英子訳)
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2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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この記事の中でご紹介した本
アウシュヴィッツの囚人写真家/河出書房新社
アウシュヴィッツの囚人写真家
著 者:ルーカ・クリッパ 、マウリツィオ・オンニス
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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