クルアーン的世界観 近代をイスラームと共存させるために / アブドゥルハミード・アブー・スライマーン(作品社)現代イスラーム思想の深部に分け入るために|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月9日

現代イスラーム思想の深部に分け入るために

クルアーン的世界観 近代をイスラームと共存させるために
著 者:アブドゥルハミード・アブー・スライマーン
出版社:作品社
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ムスリムが運営する国際的シンクタンクのうち、最も広域・多分野で言論を展開する国際イスラーム思想研究所(International Institute of Islamic Thougthts)の理論家の著作が、はじめて日本語に翻訳された。

本書は、このシンクタンクの元所長であり、現在も運営評議会議長を務めるアブドゥルハミード・アブー・スライマーンの主著である。それ故本書には、イスラーム文明が直面した近現代的な課題に対して、或る系統に分類されるムスリム知識人たちが行ってきた知的取り組みの要点が凝縮されている。

ところで、イスラーム文明が直面した近現代的な課題とは何であろうか。

イスラーム諸国は、西洋列強の植民地支配、そしてそこからの独立の過程で近代化を経験した。この近代化はしかし、宗主国、あるいは広く西洋の制度を模倣した、単なる「西洋化」とも名付け得るものであった。近代化の結果イスラーム諸国に残ったものは、形ばかりの西洋的諸制度のなかで生き長らえる腐敗した為政者と、思想的・社会的な停滞である。

少なからぬムスリムの知識人が、このような形での近代化が、イスラーム文明にとっての大きな「危機」であるとの認識を共有した。この危機の本質はどこにあるのか。そして、その解決策は何か。これが、近現代のムスリム思想家が抱える基本的な課題の一つである。

この危機の本質が、「イスラーム的な知」と「西洋近代的な知」の乖離にあると論断した人物の一人に、二〇世紀を代表するムスリムの思想家、故イスマーイール・ファールーキーがいる。ファールーキーはパレスチナ生まれの哲学者で、シカゴ大学、シラキュース大学、テンプル大学などに勤務した。アカデミックなムスリム知識人を養成する傍ら、一神教の比較研究に従事し、北米におけるイスラーム研究に多大な影響を与えた人物である。

アブー・スライマーンは、国際イスラーム思想研究所の設立・運営においてこのファールーキーと共にイニシアティブをとり、彼と共に「知のイスラーム化」(Islamization of Knowledge)というプロジェクトを称揚した。「知のイスラーム化」とは、西洋近代的な知とイスラーム的な知の統合を目指す、現代イスラーム思想の重要概念である。

アブー・スライマーンは、ファールーキーと共に、他でもなくこの概念の初期唱道者として位置づけられる人物である。

「知のイスラーム化」の概念自体は、本書『クルアーン的世界観』の前面に押し出されているわけではないが、著者の背景的な問題意識となっている。

本書で著者は、主に三つの作業を試みていると言える。第一は、イスラーム教が本来内包する、文明的な世界観・認識の枠組みを描出すること。第二は、イスラーム文明が現在の知的衰退を迎えた思想史上の内因を指摘すること。第三は、この知的衰退を乗り越えるための具体的方策を示すことである。

この目的のために著者は、イスラームの一神教的世界観、啓示と理性の関係、政治的原則、倫理、近代化/グローバル化の問題、社会科学の課題など、多様なテーマを横断する。そして、興味深いことに、終章では大学におけるカリキュラムの議論に焦点が当てられる。これは、「イスラーム的な知」と「西洋近代的な知」の乖離の具体的表出として、イスラーム諸国における教育制度の二元化が問題視されるためである。イスラーム的な世界観についての議論が、現実の教育モデルについての議論に落とし込まれ、改革のための具体的方策として提起されている。

巻末に付された、著者の思想的特徴やその限界を批判的に読み解く塩崎悠輝氏の解説は、日本語で書かれた関連書が無い中、本書を読みとくための最良の手引きとなる。

現代イスラーム思想の深部に分け入るための、これまでにない大きな足掛かりとなる一冊である。(塩崎悠輝・出水麻野訳)
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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