告白 三島由紀夫未公開インタビュー / 三島 由紀夫(講談社)自決九ヶ月前に残された、驚くほどのびやかな言葉の数々|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月9日

自決九ヶ月前に残された、驚くほどのびやかな言葉の数々

告白 三島由紀夫未公開インタビュー
著 者:三島 由紀夫
出版社:講談社
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三島が自身の欠点について語る。
「僕は文章を書くときに、あんまり文章を塗り詰めちゃうんです。(略)日本的な余白というものができない。僕はそういう欠点が自分であると思いますね」

いつもの気取りがない。無意識の存在すら頑なに認めようとしなかった、あの怪物級の自意識のバリアが緩い。

こんな発言もある。
「なぜ海が割れなかったんだろうという気持ちがあるんですよ。海が割れていたら、僕は聖地に行っていたんですよね。だけど、海が割れなかったから、こうやってホテルなんかで(笑)。それは僕の一種の告白コンフェッションなんです」
「それ」というのは短編『海と夕焼け』のこと、「海が割れなかったから」というのは日本が戦争に負けても神風が吹かなかったことを指す。私の耳はこのあとに続く声なき声を聴きとってしまう。《海が割れることを信じたのに海は割れなかった、その失望を反転させて、海が割れないことを知りながら、海が割れることを信じられる自分を創りあげるために、僕は戦後四半世紀を生きざるをえなくなったのですよ……》

本書は自決の九ヶ月前、昭和四十五年二月、三島がジョン・ベスターと対談した未公開テープを起こしたものである。ベスターは英国生まれの翻訳家で、『三島由紀夫短編全集』の英訳により第一回野間文芸翻訳賞を受けた。大江健三郎、井伏鱒二、阿川弘之らの作品の翻訳も手がけている。平成二十二年、死去。

かくも率直な対談が成立したのには、二つの理由が考えられる。一つは、相手が三島をよく理解する外国人であったこと。イデオロギー中立のジャッジができる証人を、三島は必要としていた。もう一つは、最後の長編四部作の第三巻『暁の寺』脱稿日と対談が重なったこと。後に「実に実に実に不快だった」(「小説とは何か」)と記される脱稿時の惑乱が、三島の自意識のバリアをいくらか緩めるのを手助けしたかもしれない。

さて、本書には編集上の工夫がある。対談と抱き合わせで、自伝的評論『太陽と鉄』が収録されているのである。
『太陽と鉄』は難解なテクストだが、対談と併読するとぐっとわかりやすくなる。たとえば、対談中の次の発言。
「死が自分の中に完全にフィックスしたのは、自分に肉体ができてからだと僕は思うんです。(略)自分に肉体というものがなかった時代は、死というものが外側にあったんです」

これは、『太陽と鉄』を見事に凝縮した発言といっていい。「死」は、「自身の存在が帯びる不可避な歴史性」を目ざめさせる。二十歳で死ぬべき運命から逸脱した自身へのもどかしさは、「歴史性」への後ろめたさと分かつことができない。
「歴史性」への自覚から「保守化」へ至るゆくたては見やすいが、他方でこんな発言もある。
「僕が日本ということを考えるようになったのは、西洋に何度も行ってからですから。(略)それまでは、日本というものがよくわかりませんでした(笑)」

あたりまえといえばあたりまえだが、読みすごしにできない箇所である。ちなみに三島の海外旅行は計六回、通算一年五ヶ月、これは留学に匹敵する体験とはいえないか。三島研究の今後のテーマであろう。

巻末には小島英人氏による三十頁ほどの「あとがき」が付く。この文章、読みごたえがある。氏は「憲法音頭」や「731部隊石井四郎中将の戦後日記」などのスクープをものしてきたTBS報道記者(現在は経営戦略室に所属)で、四年前に社内倉庫で一本の「放送禁止テープ」を見つけた。なぜ「放送禁止」にテープが分類されたのか、真相を追及するために関係者に話を聞いてまわる、その過程が興味深い。三島の遺族のかすかな肉声も耳にとどく。

テープは偶然発見されたというより、しかるべき発見者を選んで出現した、というふうに私には見えてならない。本書は有為の執筆家の出発点としても記憶されることになるだろう。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月6日 新聞掲載(第3209号)
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この記事の中でご紹介した本
告白 三島由紀夫未公開インタビュー/講談社
告白 三島由紀夫未公開インタビュー
著 者:三島 由紀夫
出版社:講談社
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