百年法 (上) / 山田 宗樹(KADOKAWA)山田宗樹著『百年法』上・下 青山学院大学 西野園美|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年10月10日

山田宗樹著『百年法』上・下
青山学院大学 西野園美

百年法 (上)
著 者:山田 宗樹
出版社:KADOKAWA
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舞台は1945年に終結した太平洋戦争による壊滅的被害を乗り越え、大きく発展を遂げた日本。アメリカで実用化されていたヒト不老化技術、通称HAVIを日本で導入し、それと同時に制定された生存制限法に翻弄される人々を描いている。生存制限法とは、HAVIによって多くの人間が不老不死の身体を手に入れることによる人口増加を食い止めるため、HAVI処置後百年を以て死ななければならないというものだ。そんな生存制限法、すなわち百年法がはじめて施行されようとした時、人々の心には焦燥や反抗、諦めの心が生まれはじめる。様々な心情が絡み合う混沌とした雰囲気の描写と、もどかしさが微塵もない気持ちの良いストーリー展開に、私はページをめくる手を止めることができなかった。

『百年法』は、現実には存在しない大胆な設定をもとにストーリーが展開されている。しかし、不思議なことに、この異常な世界は近い将来訪れるのではないか、むしろこの世界は今現在の世界を揶揄しているのではないかと私たちに感じさせる。主人公であるHAVIを司る官僚、遊佐章仁は、法律とはいえ国民に「死ぬこと」を勧める自分の職務にひどく頭を悩ます。本書は百年法が施行されようとしていることを知らせ、国民に自ら「死ぬこと」を選ばせるよう作成されたCMの試作品を見る場面からスタートする。この場面からスタートすることにより、遊佐の職務の困難さや日本が混乱の道を歩もうとしていることを示唆していると思うのだ。CMなどのメディアの影響力は凄まじい。その影響力をより強力にするために、前述のCMの改善案として百年法施行の初年度適用者である有名人に出演してもらうというものがあった。社会的に影響力のある人物が求められ、それは政治家たちに対しても同様である。しかし、自らの権力を使い、様々な方法で百年法から逃れようとしている政治家もおり、その提案に動揺を隠せない政治家たちもいた。ここにこの作品全体に通ずる「闇」の部分を露呈している。この「闇」の存在により、現在を生きる私たちの政治家たちを信じたいけれど、どうしても疑問を持ってしまう複雑な心情に重ね合せることができるのだと思う。

また、この作品では百年後に死が待っていることを受け入れながら永遠の若さを手に入れる人間と、老いていく身体といつ訪れるかわからない死を意識して生きる人間とを描写している。私には徐々に老いていく身体しかない。今年、私は二十歳を迎えるが、この年齢は本書でHAVI処置を受ける目安になっている時期だ。私と同じくらいの青年が永遠の身体を手に入れるか否か問われれば、永遠の身体を手に入れようとするのではないだろうか。正直、百年後なんて想像も出来ないし、百年後なら死んでもいいと処置を受ける時なら思ってしまうかもしれない。筆者は私たちが心のどこかで抱えている「老い」と「死」の恐怖に訴えかけている。不老不死の身体が手に入る未来はあるのかもしれない。しかし、その未来はいつになるのかわからない。そのような淡い期待を抱くより、「限りある命を大切に使え」というメッセージを筆者は伝えているのだ。
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この記事の中でご紹介した本
百年法 (上)/KADOKAWA
百年法 (上)
著 者:山田 宗樹
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
百年法 (下)/KADOKAWA
百年法 (下)
著 者:山田 宗樹
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
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