笹井宏之『てんとろり』(2011) ひきつづき私は私であるでしょう ところによりあなたをともなって|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年10月17日

ひきつづき私は私であるでしょう ところによりあなたをともなって
笹井宏之『てんとろり』(2011)

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天気予報の決まり文句である「ところにより○○をともなって」をもじった一首。ともなうものは雨や雷ではなく「あなた」なのだ。ポイントは、ずっと一緒にいてほしいと思っているわけではないこと。「ところにより」ともなってくれるくらいの関係がずっと続いていくことを予感している。未来を予測したってどこまでも私は私で、あなたはあなたなのだ。ドライだと感じてしまう人もいるかもしれないが、むしろ現代の人間関係としては理想的な距離感かもしれない。突き放しているのではなく、私が私のまま変わらないように、あなたもあなたのまま変わらないでいてほしいというメッセージなのだ。他者の文体のまねっこを用いてメッセージを届けてしまうのは、シャイゆえの照れみたいなのものだ。

しかし、何も照れ隠しのためだけに天気予報の文体を借りているわけではない。過去のデータの蓄積をもって未来を予測するのが天気予報なわけだから、この「私」と「あなた」の間にも相当の時間と経験の積み重なりがあるのだということを示唆してくれているのだ。どしゃ降りも台風も乗り越えてきたうえに立っている「私」と「あなた」なのだ。

天気も人間関係も不安定なものかもしれない。それでもこれまで「私」と「あなた」として過ごしてきた日々の蓄積は無駄じゃない。また天気予報を見ながら、明日はどこに行こうか話し合ったりするのだ。「私」と「あなた」として。間違っても「ふたり」ではなく。

この記事の中でご紹介した本
ひとさらい 笹井宏之第一歌集/書肆侃侃房
ひとさらい 笹井宏之第一歌集
著 者:笹井 宏之
出版社:書肆侃侃房
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月13日 新聞掲載(第3210号)
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