荒木陽子全愛情集 / 荒木 陽子(港の人)◇たしかな観察眼◇  一人の文筆家の鋭い目線で切り取る情景|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月14日

◇たしかな観察眼◇ 
一人の文筆家の鋭い目線で切り取る情景

荒木陽子全愛情集
著 者:荒木 陽子
出版社:港の人
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荒木陽子全愛情集(荒木 陽子)港の人
荒木陽子全愛情集
荒木 陽子
港の人
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荒木経惟氏の写真集『センチメンタルな旅』を手に取ったのは、一九九六年、私が大学一年生のときだった。なにげなくページを開き、あまりの生々しさにいったん閉じてしまったのを覚えている。貴重な私家版のそれを、どこで見せてもらったのか。当時の背景が吹き飛ぶほど、衝撃的な出会いだった。

荒木経惟という写真家のことは、それ以前から知っていた。個性的な風貌の、緊縛とか撮ってるオジサン。それすら十代の少女には生々しくて直視することは憚られたのに、妻との新婚旅行を撮ったという、陽子さんの言葉を借りれば「エグイ写真」は、はたして第三者の目に触れていいものなのか。だが一度閉じたページを恐る恐る開いてみると、私は荒木陽子という女性に釘づけになっていた。

なにしろこの新妻は、とにかく憂鬱そうなのである。大っぴらなセックス描写、それらの写真は決して夫婦間の「プレイ」には見えなかった。ある週刊誌に載った対談で『よく飼育したというか、できてる奥さんだ』と評され陽子さんは激怒したらしいが、とても「飼育された」女のようではない。その瞳に媚びはなく、夫を口に含んでいる写真でさえ、こちらを観察しているようだ。なにゆえに彼女はここまで己をさらけ出し、夫の写真活動に貢献しているのだろうか。

本書『荒木陽子全愛情集』は、一九七八年~一九九〇年までの彼女の文章を、すべてまとめたものである。旅や食事、テレビ番組や映画、それから最も身近な夫。描き出される情景は、決して著名な写真家の妻ではなく、一人の文筆家の鋭い目線で切り取られている。たとえば『料理番組はおもしろい。なぜかとゆーとタンパク質の変化がちゃんと見られるから。こんなに生々しいことってないと思う』という一文は、今夜の献立どうしようかしらと悩む主婦の視点ではあり得ない。
『私は別に、夫の天才を信じてここまで随いて来ました、という感じではない。(中略)単なるオモシロガリの一観客に過ぎない。だから、私は自分をいささかもゆがめていないし、犠牲的な気持ちになる事もないし、至って健康なものである』

夫婦なのだから、歳上の夫に感化されたところがまったくないとは言えないだろう。それでも彼女は荒木陽子の目で、オモシロイと思えるものをただジッと見つめていたのである。集中してものを見るときの顔は、決して笑顔ではない。あれは貢献などというものではなかった。彼女もまた、一人の表現者だったのだから。

その観察眼のたしかさは、十二年分の文章群の中で、夫荒木経惟氏を描く視点が少しもぶれていないことからも伺える。また『センチメンタルな旅』では妻の死を予言するかのような写真にドキリとさせられるのだが、陽子さん本人も、子宮肉腫が発覚する以前から己の死を感知したかのような一文を書いている。これはただの偶然なのか。ぜひ本文を読んで確かめていただきたい。

この記事の中でご紹介した本
荒木陽子全愛情集/港の人
荒木陽子全愛情集
著 者:荒木 陽子
出版社:港の人
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月13日 新聞掲載(第3210号)
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