啞蟬坊伝 / 藤城 かおる(えにし書房)啞蟬坊の歌の魅力  演歌のなかに見え隠れする民衆史のダイナミズム|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 啞蟬坊伝 / 藤城 かおる(えにし書房)啞蟬坊の歌の魅力  演歌のなかに見え隠れする民衆史のダイナミズム・・・
読書人紙面掲載 書評
2017年10月14日

啞蟬坊の歌の魅力 
演歌のなかに見え隠れする民衆史のダイナミズム

啞蟬坊伝
著 者:藤城 かおる
出版社:えにし書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
啞蟬坊伝(藤城 かおる)えにし書房
啞蟬坊伝
藤城 かおる
えにし書房
  • オンライン書店で買う
明治から大正にかけて演歌師と呼ばれる人々がいた。演歌師たちは街頭に立ち、道行く人々に、世相や社会を巧みに諷刺した演歌を歌って聞かせ人気を博した。演歌の源流は、自由民権運動を推進する壮士たちが街頭説に節をつけてった壮士節で、現在の歌謡曲の演歌とは別物だ。添田啞蟬坊は演歌師(一八七二―一九四四)のなかでも最大のヒットメーカーとされる人物だ。

和製プロテストソングの元祖といった魅力を持つ演歌については、これまでも度々書籍が出されてきた。啞蟬坊関連では、息子の知道と親子二代を扱った木村聖哉『添田啞蟬坊・知道――演歌二代風狂伝』(リブロポート、一九八七年)以降まとまったものはなかったが、近年になって雑誌『東京人』連載の松葉一清「歌え!啞蟬坊――デモクラシーの帝都」(二〇一二年)、社会評論社編集部編『演歌の明治ン 大正テキヤ――フレーズ名人・添田啞蟬坊作品と社会』(社会評論社、二〇一六年)、そしてこの夏はルポライターの鎌田慧と音楽家の土取利行による対談『軟骨的抵抗者 演歌の祖・添田啞蟬坊を語る』(金曜日)と本書が出版され、改めて注目が集まっている。

本書の特徴は、啞蟬坊の演歌を時代背景、特に堺利彦や荒畑寒村らの社会主義運動との関わりから丁寧に検証したところにある。たとえば「社会党ラッパ節」では、「あわれ車掌や運転手 十五時間の労働に 車のきしるそのたんび 我と我身をそいでゆく トコトットット」の短い歌詞の背景にある明治三十九年の電車賃値上とそれに対する庶民の反発、堺利彦たちの抗議運動、当局の弾圧等々を資料でたどりながら、演歌のなかに見え隠れする民衆史のダイナミズムを浮かび上がらせる。この手の本にありがちな歌詞の概説で終わらせるのではなく、そこから一歩踏み込んで――一部の歌に限られるが――具体的な時代の熱気と共に啞蟬坊の歌の魅力を論じようとした点に新鮮な読み応えがある。資料や注釈も多く、啞蟬坊と社会主義の関係については、これまでのどの関連書よりも充実している。巻末附録として啞蟬坊作『「平民あきらめ賦本」歌本見本』のカラー復刻がついているのも嬉しい。

しかし反面、歌の選択や考察がやや主義主張の強いものに偏っていたり、演歌がもつ音楽性や芸能的な部分の記述が少ないのは残念だ。また評伝と題しながら、啞蟬坊の人生や思想については事実関係の列挙にとどまる部分が多く、これまでの啞蟬坊関連書以上の発見があるとは言い難い。啞蟬坊には優れた随筆家としての顔もあるが、それにほとんど触れられてないのも物足りない。明治大正時代の多感で多様な可能性を秘めていた啞蟬坊と演歌が、全体として、後年の社会主義運動史観の裡にきれいに収められてしまった感じがある。

この記事の中でご紹介した本
啞蟬坊伝/えにし書房
啞蟬坊伝
著 者:藤城 かおる
出版社:えにし書房
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月13日 新聞掲載(第3210号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
中野 正昭 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 演劇関連記事
演劇の関連記事をもっと見る >