「利己」と他者のはざまで 近代日本における社会進化思想 / 松本 三之介(以文社)新しい思想が生れる場所  知性と理性の機能に注目|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月14日

新しい思想が生れる場所 
知性と理性の機能に注目

「利己」と他者のはざまで 近代日本における社会進化思想
著 者:松本 三之介
出版社:以文社
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著者は「まえがき」で「思想は人間の思考によって形づくられるものであるから、観念の世界の産物であると同時に、また状況の産物という側面を持つ。新しい状況のなかで読み替えられ組み替えられることによって、新しい思想は生まれる。それが思想の歴史である。」と、生きな形で思想史を性格づけている。副題の「近代日本における社会進化思想」が本書の流れを卒直に語っている。

まず章立てを追って全体を俯瞰しておこう。第一章((1)と略記)「思想としての社会進化論」、(2)「加藤弘之と社会進化論」、(3)「キリスト教と進化論」、(4)「『法律学の革命』」、(5)「有賀長雄の社会進化論」、(6)「中江兆民における進化の観念」、(7)「徳富蘇峰と社会進化論」、(8)「丘浅次郎―生物学者の社会進化論」、(9)「『利己』と『愛国』―明治後期の加藤弘之」、(10)「社会主義とダーウィニズム」、(11)「大山郁夫の国家と進化論」、終章「社会進化論の思想的意味」。終章には、これまでとりあげた諸家の所説から社会進化論の全体的な思想的意味がまとめあげられている。著者が執筆に際して留意したのは、近代市民社会にとって私的利益が基本問題であり、更に、個人の利益―生存欲求がその究極ある生物的欲求・・・・・にもとづくものなら社会的国家的利益という公共的価値が優先される道徳論=規範的人格観の強調される日本では、これを主張することの難しさが念頭を離れなかったと語っている。

知性や理性の機能に注目して他の生物と人間とを区別する考え方は、自然と文化との二元的対立を原理とする文化主義や人格主義、あるいは存在と当為を強調する立場である。大正期にわが国では新カント派の哲学が流行したあと、物質と精神というデカルト的二元論の間に生命という第三の位相を引き入れることによって二元論を破り捨て、進化と進歩の一体化=自然と文化・価値の融合という視点で社会進化論にアプローチする形が選ばれた。

文化について著者は「文化的・価値的なものと融合すべき自然とは、個的・価値的なものと融合すべき自然だとのべる。それはいうまでもなく生物進化論の生存競争が前提とする個体の生命の保存であり、それを支えるのは生物個体としての自然の欲求である。そこでは、人間個体=個人により構成される社会の進化論は当然のこととして人間個体のこの生存欲求を価値として生物進化論から継承しなければならないだろう」とみている。

国(国家でない)とは人びとの集まりだという個と全体のとらえ方をする啓蒙主義的人間観では「実在する人間個体であり、社会とか国家は人間個体の『集りたるもの』を指す名辞(つまり観念)に過ぎないと受け取っている。そしてこうした受け取り方こそが社会や国家という全体に対する自立的個人の存在を支える。この自立的個人の存在があってはじめて、社会のなかの個人=社会的人間による『利己』の貫徹が可能となる」。

さらに加藤弘之(転向前の)、中江兆民、丘浅次郎、大山郁夫、初期社会主義者の思想に、このような個人と社会の捉え方=利己の担い手としての自立的個人がみられると著者は指摘し、反対に、「個人の自立性を認めない無限的な生物有機体との類比は、社会進化論を全体主義のイデオロギーへと導くこととなろう」と。そして本書で取り上げた加藤弘之は、その典型的な事例と言うことができると。

私は二つの論文に注目している。(6)「中江兆民における進化の観念」と(11)「大山郁夫の国家論と進化論」だ。

前者は『三酔人経編問答』という問答体の論争を内に含んだダイナミックなスタイルだ。いまの若い人に老婆心から解説すると経綸とは国を治め秩序あるものにすること、つまり政治経済のことだ。三酔人とは理想主義の洋学紳士と伝統派の豪傑君に対し南海先生が自由・平等・民権の漸進的実現を説いている。南海先生が兆民だと見る説もあるが、私は一九五〇年後半にいずれも兆民の分身だと主張した(名古屋の地方誌で)。

後者は国家論を実証主義政治学によって基礎づけた点が新鮮であった。これによって天下国家を大上段に構えて論ずるハッタリを押え込むことができたのである。

この記事の中でご紹介した本
「利己」と他者のはざまで   近代日本における社会進化思想/以文社
「利己」と他者のはざまで 近代日本における社会進化思想
著 者:松本 三之介
出版社:以文社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月13日 新聞掲載(第3210号)
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