ゴースト / 中島 京子(ゴースト)幽霊から見えてくる人生の妙  綿密な取材とともに繊細な物語が綴られる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. ゴースト / 中島 京子(ゴースト)幽霊から見えてくる人生の妙  綿密な取材とともに繊細な物語が綴られる・・・
読書人紙面掲載 書評
2017年10月21日

幽霊から見えてくる人生の妙 
綿密な取材とともに繊細な物語が綴られる

ゴースト
著 者:中島 京子
出版社:ゴースト
このエントリーをはてなブックマークに追加
ゴースト(中島 京子)ゴースト
ゴースト
中島 京子
ゴースト
  • オンライン書店で買う
タイトル通り、ゴースト(幽霊)の登場する短編が七編収められている。幽霊が出てくるといっても、恐怖心をあおるホラー小説ではなく、幽霊という存在をからめて、そうなるにいたった境涯、そしてそこから見えてくる人生の妙を味わうための物語である。既存のあまたある幽霊物の小説と比較して、幽霊に対する理解が深いように思う。

さっきまで話していた人が、実は幽霊であったという恐怖。ほとんどの幽霊物が、そこで終わっているような気がする。つまり、幽霊が現れることの特殊性によって成立させているのだが、『ゴースト』の幽霊たちは、一般的な「幽霊」というカテゴリーとは異なる、幽霊的な存在として描かれ、その視点からこの世界を考察することを主眼としている。つまり、幽霊を前提とした物語なのだ。そしてこれらの物語がフィクションの形を取りながら、実際に起きた出来事と密接に関わり、ノンフィクション性を帯びて迫ってくる独特の読書体験は、綿密な取材とともに繊細な物語を綴ってきた中島京子ならではの世界だと強く感じ入った。

「原宿の家」という短編では、地上げ屋の下調べのようなアルバイトをしていた大学生が、原宿の奥の古い洋館に住む謎の若い女性と恋仲になるのだが、この女性は謎が多く、調べていくうちに、かつてその家に棲んでいた、今は存在しない女性なのではないのか、という疑いが生まれてくる。そこで、死んだことに気付かずにいる魂が幽霊になった、という単純な話ではないのである。原宿の古い建物が出てきたとき、表参道ヒルズが建つ前にあった、大正十五年建築の同潤会アパートのことがまず頭を過ったのだが、この物語に出てくる一軒家は、実はそれと深い関わりがある。そのことが妙にうれしく、興奮してしまった。

幽霊というのは、見えないはずのものが見えてしまうことである。あるいは、今見えているものを疑うことでもある。人が死ぬ、ということは、その肉体が動かなくなるということだが、その人が生きていた過去の時間がまるごと消失するわけではない。毎日会っていた家族でもなければ、その人が死んだと知っても、その死は概念でしかない。ふとなんらかの出来事を思い出し、話した内容を反芻し、しかしもう二度とそんな話をすることもできないのだなと具体的に思ったときに、その人の死をやっと感じることができる。しかし、想像の中でなら、いくらでも話をすることができる。そのときその人は、想像の中で生きている。幽霊というのは、それを一時的に実態化させるのに成功した存在なのではないだろうか。

「ミシンの履歴」という短編は、激動の時代をくぐり抜けた一台のミシンの物語である。古いミシンといえばシンガーの足踏みミシンが有名だが、この短編の主人公は、昭和の初めに作られた国産メーカーが作った「一〇〇・三〇」と名付けられた足踏みミシン。小金井で生まれ、洋裁学校で働き、戦下に大日本婦人会の授産所に払い下げられたのち、個人宅に引き取られたところで空襲に巻き込まれ……と、数奇な運命を辿りつつ、部品を損ないつつ、戦後も生き延びる。一つの身近な機械を通して、様々な人の人生の輝きや悲しみ、やるせなさが浮き彫りになる様は、圧巻だった。物言わぬ道具もゴーストに成り得るという、その観点に瞠目した。

この記事の中でご紹介した本
ゴースト/ゴースト
ゴースト
著 者:中島 京子
出版社:ゴースト
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月20日 新聞掲載(第3211号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
東 直子 氏の関連記事
中島 京子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 怪談関連記事
怪談の関連記事をもっと見る >