ライプニッツの創世記 自発と依存の形而上学 / 根無 一信(慶應義塾大学出版会)哲学の根本問題に立ち向かう  『弁神論』を読み解くために|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月21日

哲学の根本問題に立ち向かう 
『弁神論』を読み解くために

ライプニッツの創世記 自発と依存の形而上学
著 者:根無 一信
出版社:慶應義塾大学出版会
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微積分学の形成者の一人としても知られる17世紀ドイツの哲学者、ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646―1716)の著作に『神の善意、人間の自由、悪の起源についての弁神論』(1710年、以下『弁神論』と略記)がある。弁神論とは狭い意味では「世界の悪の存在に対して創造主たる神を弁護すること」を意味する。

近年、ライプニッツ研究の「脱合理主義的転回」ということがしばしば指摘されている。従来ライプニッツの真骨頂は数学や論理学に求められることが多かったが、現在ではより多面的なライプニッツ像が追求されているのである。これまで「通俗書」とさえみなされてきた『弁神論』についても再読・再解釈・再評価の機運が世界的に盛り上がっている。根無一信氏の著書『ライプニッツの創世記 自発と依存の形而上学』も『弁神論』とその周辺のテキストを中心的な研究対象としながら脱合理主義的転回に棹差す好著である。

本書の構成は以下の通りである。



序章 真理は中間的である―世界創造の謎

第一章 介入せずに介入する神―創造における神の働き

第二章 創世する被造物―被造物の「自発性」の根拠「Diminité」

第三章 来って現れる本質―創造における神と被造物の関係

第四章 賢者は常に最善を選ぶ―自由の形式

第五章 星々は傾かせる―自由の内実

第六章 神に栄光あれ―神における根源的意志

結語 はじまりのDiminité―ライプニッツ形而上学の意義



本書で問われるのは神と神によって創造されたもの、つまり被造物(第四章以下ではとくに人間)との関係である。ライプニッツによると、被造物は一方で「自発」的な仕方で存続していくが、他方であらゆる瞬間にその存続を神に「依存」している。結局のところ、被造物は自発的な存在なのか、それとも依存的な存在なのか?これはライプニッツ解釈の問題であるだけではなく、哲学の根本問題そのものでもある。著者はライプニッツのテキストに寄り添いながら、しかし著者自身の強固な哲学的問題意識にも導かれながら、この根本問題に立ち向かう。著者の答えは、先行研究とは違って、「自発」と「依存」は矛盾しあわないし、どちらか一方に回収されることもないのであって、むしろ調和的に両立する、というものである。

本書のいずれの章でも興味深い議論が展開されているが、最も重要なのは第一章であろう。そこではライプニッツが世界創造における神の働きをどのように考えていたのかが問われる。著者によると、神は被造物の存在と働きに対して創造の瞬間以来つねに連続的に作用している。そのかぎり被造物はつねに神に「依存」している。しかし、その神の作用は実際には被造物が被造物として現実化するにあたってその「妨げを取り除く」ことでしかない。だから被造物はその存在と働きに関して「自発的」であることをやめない。被造物の「自発」と神に対するその「依存」とは調和的に両立するのである。これが本書第一章の結論であり、本書全体の根本的な論理として他の章でも繰り返し言及される。

『弁神論』は読解困難な著作である。長大であるうえ、叙述が入り組んでいる。ライプニッツ自身の哲学的教説が展開されているだけではなく、論敵として想定されているフランスの思想家ピエール・ベールに対する批判もなされている。そのため『弁神論』には様々なタイプの立論が併存しており、その読み分けは容易ではない。本題に直接的な関りがないように見える脱線もしばしばなされる。下手をすると、もともとの議論がどのようなものだったのか分からなくなる。迷宮のような著作であると言っては言い過ぎか。しかし、読者が『弁神論』という迷宮の中を進もうとするとき、本書の強固な問題意識と明快な論理構成とがひとつの道しるべとなることは間違いない。

この記事の中でご紹介した本
ライプニッツの創世記  自発と依存の形而上学/慶應義塾大学出版会
ライプニッツの創世記 自発と依存の形而上学
著 者:根無 一信
出版社:慶應義塾大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月20日 新聞掲載(第3211号)
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