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American Picture Book Review
2017年10月31日

『ビー・ボーイ・バズ』

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『Be Boy Buzz』(Jump At The Sun)
Bell Hooks著、Chris Raschka画
最初のページに大きく書かれた「I be boy.」。これはイボニックスと呼ばれる黒人英語の典型的な文章だ。「ボクは男の子」を意味し、標準英語では「I am a boy.」となる。本作『ビー・ボーイ・バズ』は全篇が黒人英語で書かれており、ページを繰ると走る黒人少年の絵に「I be boy running.」(ボクは走る男の子)、ジャンプする少年の絵に「I be boy jumping.」(ボクはジャンプする男の子)とある。  アフリカ系アメリカ人の多くが日常生活では黒人英語を話す。日本の方言と同じく標準語話者との会話は問題なく成り立つが、独特の言い回し、単語、文法、発音がある。しかし黒人英語は日本の方言とは異なる扱いを受ける。大阪弁や東北弁など、方言はときにジョークの対象となることはあっても地方文化として尊重されている。他方、黒人英語は無学な黒人のブロークン・イングリッシュと捉えられ、その民族性や文化、歴史が顧みられることはない。「I be boy.」といった構文はbe動詞の誤用とされ、「I don't talk to nobody.」(私は誰とも話さない)など二重否定も完全に誤った文法とされる。白人社会で黒人英語が唯一受け入れられるのは、黒人コメディアンが面白おかしく喋る時くらいではないだろうか。だが、黒人英語は豊かなリズムに満ち満ちている。本作も黒人英語ならではのリズムによって、黒人の男の子たちの躍動感が生き生きと表されている。  この絵本が伝えるのは黒人英語の魅力だけではない。イラストも黒人少年たちの素顔を引き出している。顔は絵筆のタッチを粗く残した茶色で塗られ、その絵の具が乾かないうちに描き加えられた髪は、うまく滲んで水墨画を思わせる。少年たちの髪は縮れ具合や長さがそれぞれに違う。どの少年も唯一無二の個性を持つ「美しい」存在なのだ。少年たちは走り、跳び、笑い、大声で喋るだけではない。時には独りになって本を読み、考え、夢をみる。時には泣き、時には頼れる兄に抱きしめてもらう。根強く残る「陽気だが乱暴で勉強嫌い」という黒人少年のステレオタイプを覆しているのだ。そうしたすべての描写が、黒人文化の最たるものである黒人英語でなされている。  そして最後のページ。黒人少年たちは黒人であること、男の子であることを自覚し、まっすぐに自己肯定をするのである。
2017年10月27日 新聞掲載(第3212号)
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