『角 川 新 字 源』 23年ぶりの大改訂! 編者・阿辻哲次氏インタビュー/「校正者・境田稔信氏に聞く」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年11月1日

『角 川 新 字 源』 23年ぶりの大改訂!
編者・阿辻哲次氏インタビュー/「校正者・境田稔信氏に聞く」

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一九六八年の刊行以来、コンパクトな漢和辞典の代表的な一冊として、時代を超えて支持されてきた『角川新字源』が、九四年以来二三年ぶりに大改訂され、新版が十月三〇日に刊行される。

改訂のプロジェクトがスタートしたのは、今から十年前のことである。ゲラの校正だけでも、六校、七校に及び、五年もの月日が費やされた。

結果、旧版と比較して、収録字数が「約一万三五〇〇字」と四割増えるなど、様々な点で改良が施されることになった。改訂のポイントはどこにあるのか。
編集の中心を担った阿辻哲次・京都大学名誉教授にお話をうかがった。
辞書研究者でもあり、本辞典の校正を担当した境田稔信氏にも、合わせてお話いただいた。

(編集部)

改訂まで十年、「情報化社会における漢字」へ対応

阿辻 哲次氏
――阿辻さんは、『新字源』の編者である小川環樹さんに、京都大学で学ばれています。また、ご実家が印刷業を営まれていたこともあり、幼い頃から「活字=漢字」が身近にある環境で育ってこられました。漢字にまつわる御本も数多く著されており、いわば『新字源』の編集を運命づけられたような方ではないかと思います。今回、改訂のお仕事を依頼された時のことから、まずはお聞かせください。

阿辻 びっくりしましたというのが、正直なところです。漢和辞典をはじめて使ったのは、『新字源』だったと思います。高校生の時のことです。大学入学後、一般教養の授業で『新字源』のもうひとりの編者である西田太一郎先生の講義も受けたことがあり、その後中国文学の道に進んでからは、いつもカバンの中に、この辞書が入っていました。京都大学の当時の中国文学科の主任教授が小川先生で、私が三年生の時、退官される前の最後の年度で、幸運にも講義を受けることができました。当時は、東洋史・中国文学・中国哲学・仏教学、何を学ぶにしても、『新字源』がなければどうしようもなかった。各出版社が打倒『新字源』を目指して漢和辞典作りをしていたような時代です。その光り輝く金字塔を、恩師である西田先生と小川先生、そして東大の赤塚忠先生が作られた。それを今度は、私たちが担うことになったわけです。

実は、『新字源』のあとに、同じ角川書店から『大字源』と『必携漢和辞典』という辞書が出ています。前者のプロジェクトは私が大学院生の頃に立ち上がり、これも私の恩師にあたる尾崎雄二郎先生と都留春雄先生が編者をしていた関係で、メンバーとして呼ばれました。後者の時は、「プレイングマネージャー」的な仕事を任せられるようになりました。そういう意味では、「角川の漢和辞典」とは、ものすごく付き合いが長いんです。

角川書店には、入社以来『新字源』に携わっている、「ウォーキング新字源」とも呼ぶべき編集者がおられます。既に定年を迎えられていますが、今回の改訂の話も、その高野良知さんからお話がありました。「あなたに頼みたい」といわれて、これはエライことになったなあと(笑)。ただ、「大改訂」といっても、基礎はあるわけですね。新たに編むのとは違います。新機軸を入れるとしても、二割、三割に収まるだろうと考えていました。

漢字には「形・音・義」という三つの要素があります。私は主に「形」について研究してきましたから、その部分を担当する。発音と意味についても、担当のキャプテンを決めて、共同作業で進めていく。だから、わりと簡単にできるんじゃないか。そんな感じで、高野さんと話をしました。しかし、まったく予測が甘かった(笑)。豈図らんや、十年以上かかるとは、よもや思いませんでした。

――初版の刊行が一九六八年で、常用漢字表が発表された翌年に増補され、次の改訂が一九九四年。そこから今回の改訂まで、二三年の歳月を経ています。今この時期に大改訂する意味合い、必要性についてお聞かせいただけますか。

阿辻 たとえば漢和辞典というものを、「漢文を読むための辞書」という位置付けで考えてみれば、漢文そのものは閉じている世界ですから、大きなリニューアルを施す必要はありません。『論語』の新しい写本が出てくることなど、ほとんどありえませんし、漢和辞典が扱う文献は、ほぼ変わらない。日本でも千数百年の伝統を持つ研究領域であり、この数十年でドラスティックに解釈が変わるというものでもありません。では、何をリニューアルするのか。コンピュータや携帯電話など現代のテクノロジーの発達により、一般の人たちも、それに応じてたくさんの漢字かなまじり文を書く時代になりました。伝統的な漢和辞典が、そうした状況にどう対応するのか。ここが今回の改訂の最大の課題だったと思います。「情報化社会における漢字」に対して、旧来の漢和辞典は、かならずしも万能の武器とはなりえていなかった。そこをどうアップデートしていくかということです。

――具体的な改訂内容に入る前に、もう一点だけ全体的な話をお聞かせください。プロジェクトの始動から十年、校正だけでも七回に及び、五年以上の時間がかかったとうかがいました。この間、編者として一番苦労された点は、どの辺りにあったのでしょうか。

阿辻 編集作業自体は、私どもの専門に関わることですから、それほど苦労はありませんでした。やはり一番気を遣ったのは、現在の日本において、漢和辞典というものをどう打ち出していくかという点についてです。たとえば江戸末期から明治の頃であれば、ほとんどの知識人が漢文を勉強していたわけです。夏目漱石にせよ森鴎外にせよ、しっかりした漢文の素養を持っていた。多くの国民にとっても、「学問=漢文の講読」という位置づけだったと思います。そういう時代に、漢和辞典を作って売っていくのはそんなに難しくはない。漢文の勉強をしようとすれば、誰もが必ず一冊買わなければいけませんからね。一般の方と漢文の関係性が薄れた今の時代だからこそ、漢和辞典を作るのが難しい、売るのが難しいんです。実は漢字に触れる機会が増えているとはいえ、「この漢和辞典はよくできています」と、作り手がいくら説明したとしても、どこまで一般の方の琴線に触れることができるのか。どの部分に新鮮味を感じていただけるのか。そこは編者とともに、編集部も随分神経を使われたところだと思います。

結局は、今申し上げたように、情報化社会、デジタル時代に対応するためにどうするかということに尽きます。少なくとも日本のコンピュータで使える漢字、いわゆるJIS漢字には対応しなければいけない。漢字研究者の立場からはJIS漢字に対していいたいこともありますが、一般の方には関係ありませんから、すべて入れ、対応した文字コードも付しました。もちろん、圧倒的な指示を受けてきた辞書ですから、昔これを使って勉強した人たちが再び手にした時に、納得していただけるような中身であることは変えない。そこは堅持したつもりでいます。
絶対に必要な漢字を、約一万三五〇〇字収録

――ここからは、旧版との違いについて詳しくうかがっていきたいと思います。辞書事典の類では、まず何より問題とされるのが「収録語(字)数」です。これについては、阿辻さん御自身が著書の中で指摘されていることでもあります。諸橋轍次の『大漢和辞典』が約五万、『中華字海』には八万五六六八字が収録されている。しかし、字数が多ければいいというものではない。少なくてもよくない。新版は旧版より約四割増えて、約一万三五〇〇字の収録字数です。その選択の基準と、どのような字が主に増えたのか、お聞かせいただけますか。

阿辻 まず旧版に収録されている字があります。それ以後の『大字源』や『必携漢和辞典』の編集経験がありますから、ある程度は改訂で増やすべき文字がわかっていた。そこにJIS漢字のうち未収録のものを加える。「旧版+α+JIS漢字」というのが、いわば外堀となります。それを元にして編集部が親字表を作成しました。
『中華字海』について、ひと言説明しておきます。歴代の中国の辞書を見ていくと、字数の多さを誇るために作られてきたところがあります。簡単にいえば、それまでに作られている辞書に十文字プラスすると、史上最大の辞書ができます。ただ、ここで選ぶ十文字というのは、実際にはまったく必要のない「死文字」なんですね。どこかの「文字オタク」が作ったようなお遊びの字でありながら、一文字として勘定される。ある意味で中国の辞書作りの歴史は、その繰り返しだったともいえます。古くは西暦一〇〇年に最古の部首別漢字字典である『説文解字』が作られ、そこには九三五三字収録されていました。そして時代を追うごとに字数が増えてゆき、『康熙字典』の約四万七〇〇〇字を経て『中華字海』にまで至っています。

我々は、単に字数を増やすということに意味を感じていません。むしろ重要なのは、絶対に必要な漢字について、より過不足のない情報を盛り込むことです。いたずらに字数を増やすのは、学習用あるいは言語を考えるための辞書がすべきことではない。したがって、最初に編集部が作成した親字表にほとんど注文はつけませんでした。異体字として扱われていた文字のうち、独立させた方がいいと思わるものを、いくつか指摘したぐらいだったと思います。

――「熟語」の収録数についてはいかがでしょうか。旧版六万語に対して、参考熟語を含めれば十万五〇〇〇語と七割ほど増加しています。

阿辻 これに関しても、旧版に加えて『大字源』や『必携漢和』といった他の辞書での経験が基礎になっています。高校生向けに作られた『必携漢和』は、幅広く教科書の用例に網をかけて熟語を拾ってきています。これら三つをカバーする熟語が、編集部が打ち出してきたものです。そこに我々がチェックを入れて、最終的な収録熟語が決った。元あったデータも利用して、旧版の優れた部分、遺産はきちんと継承してくという方針ですね。
必見!「字源=なりたち」解説、古代文字収録も増

本文組見本
――今回の改訂で、「字源=なりたち」の解説に、かなり気を遣われたとうかがっています。ここは阿辻さんのご専門となります。

阿辻 漢字のなりたちは、世間から熱く注目を浴びる領域です。それだけに、一番厄介なのが、この部分でもあるんです。漢字には三つの要素があると申しあげました。たとえば発音に関しては、拠るべき論拠があります。韻書に記された「反切」に基づいて、ある程度客観的に特定することができる。意味についても、多くの文献の用例を参照することによって、おおよそ客観的に示せます。しかしなりたちには正解と呼べるものが少なく、たくさんの説があるんですね。実際に、辞書によって解釈が違うこともしょっちゅうあります。今回は私が担当していますが、なるべく客観的な拠り所が提示できるものを掲載するようにしました。基本的には『説文解字』に準拠していますが、もちろん百パーセント正しいということはありません。その時には、それ以外の研究を参考にして、ほぼ現在定説化している解釈を引くようにしました。甲骨文字や青銅器に書かれた文字の新発見も、ありましたから、ある程度はそうした研究成果も取り込んでいます。

――古代文字の収録が、改訂新版では約九千字に増えています。ここも大きく変わった点ではないでしょうか。

阿辻 甲骨文字、金文、篆書体などを数多く掲載しています。『大字源』や『書道大辞典』など他の資料から私が見て選びました。今の利用者は、白川静先生の研究の影響もあって、古代文字に詳しいんです。旧版ではほとんど入っていませんでしたが、今やそこに触れないと、漢和辞典として相手にされないでしょう。もうひとつ、旧版と改訂新版の大きな違いについていっておきます。日本語における漢字の読みには、「漢音」「呉音」などいくつかあります。このうち呉音に関しては、この十年ぐらいで研究が画期的に進んでいるんですね。ここは担当の木津祐子さんがかなり詳しく調べてくださって、最先端の研究成果が取り入れられている。したがって、一般の利用者の方は、こんな読みは他の辞書には載っていないじゃないかと思われるかもしれません。しかし改訂新版にある音が、やがて定説になっていくと、私たちは考えています。

――その他に、『新字源』の特長について、もう少しお聞かせください。

阿辻 『新字源』では、意味の項目が展開順になっています。古代文字を含むなりたち欄の次に意味欄があるのですが、古い意味の説明が最初にあり、続いて派生していった意味が並びます。この順番で読んでいくと、漢字の元々の形と意味の関係、歴史的変遷がよく理解できると思います。一般的に使用頻度の高い意味は、赤色で表示することとしました。それから「助字」の掲載も、旧版とは変わっています。以前は、「莫」とか「而」といった助字の解説は、最後の付録の中に入っていました。それを本文の中に持ってきた。「当」の項目の中で、「まさに~すべし」という意味を説明する。この方が読者の使い勝手がいいのではないかと考えて、本文で解説するようにしたわけです。これらは、内容の変更というよりは、新しいメソッドを導入したということですね。
漢字は古代の世界が詰 まったタイムカプセル

甲骨文字「女」
――主に編集方針についてうかがってきましたが、実際に改訂新版を引く時のことを踏まえて、補足しておうかがいします。漢和辞典を利用する際、調べたい字にいかに早くたどり着けるか。そこが重要なポイントになるかと思います。「検索」に関しては、どのような便宜がはかられているのでしょうか。

阿辻 振り返ってみると、一九六八年に初版が刊行された時には、音訓索引は一番後ろに載っていました。漢和辞典は部首で引くもので、それがわからない時には総画で引くものだったわけです。音訓索引で引くのは邪道だという認識があったのかもしれません。しかしやがて途中の版で、音訓索引を先頭に移動させています。部首や総画で引けない人が圧倒的に増えた、あるいは読み方がわかっていたら音訓で引けばいいというニーズの高まりもあって、それに対応して変更したのです。そこで既に検索に対する便宜は図られていました。では、今の時代に応じて、さらに便利な検索の方法があるのかどうか。

部首索引に関しては、いろいろな試行錯誤があり、実際に新しい試みをしている辞書も見られます。たとえば「與」という字がありますね。今の子どもたちは、この字では引けない。どうしたって「与」からしか引けません。そういった引きにくい部首に対しては、『新字源』でも本来のページに誘導する欄を設けていたりします。現在の中高生にはこうした親切さが必要でしょう。ただ、その上で専門家の立場からいえば、やがて大学に入って、中国の古典、歴史、哲学、仏教、いわゆる伝統的な漢文の世界の研究に入っていく人たちが、少なからずいるわけですね。京都大学だって、一学年に三十人ぐらいはいる。彼らはいずれ『康煕字典』に象徴される伝統的な漢字の検索方法に直面することになります。部首検索に慣れていないと、その時にとまどうことになる。そうした人たちに対しても、我々は目配りしなければならない。そこが漢和辞典を作る時の難しいところだと思います。

――「部首法」をうまく使うようになるコツがあれば、アドバイスをいただけますか。

阿辻 私は若い頃から部首法に慣れていましたから、自然と使っていたので、まずは辞書に親しんでくださいとしかいいようがないんですけれども、学生時代の後輩から聞いたエピソードをひとつ紹介します。その子は運動部のマネージャーをしていて、コンパで、ある漢字が話題になったといいます。元々どういう意味なのかと、部員の男子が侃々諤々の議論になった。それを聞いていた彼女は、某有名ブランドのバッグから『新字源』を取り出して、すぐに調べて答えた。周りの男子はみんなびっくりしていたそうです(笑)。我々は、常に『新字源』持ち歩き、朝から晩まで引いていた経験を持っています。だから、やはり漢和辞典を引くことに、まずは慣れて欲しい。ある程度の年齢以上の方であれば、はじめてパソコンを使った時のことを思い出してみてください。「QWERTY」と並ぶキーボードのローマ字入力を、まったく使いこなせなかったですよね。「も」だったら「MO」と打たなければならない。そこに強い抵抗があった。しかし慣れれば何てことはありません。それと同じことだと思います。

もうひとつ、いろんな想像力を働かせて、漢字を楽しんでみるということですね。よく授業で話すことですが、「鳥」や「馬」「山」といった、はっきりと目に見えるものを、象形文字で作るのは簡単です。では「女」という意味を表わす文字を作ろうとしたら、どうなるのか。古代の中国では、手を前に組み合わせて、跪いている人間の形を文字にした。つまり柔順なポーズをとっている形をもってして、「女」という字を作ったわけです。そこには、ある時代の社会的な観念や価値観が反映されています。現代の日本人が「女」という意味を表わす文字を作ったとしたら、決してそうはならないでしょう。いわば漢字というタイムカプセルがあって、そのカプセルを開くと、我々が忘れてしまった古代の価値観や人生観が広がっていく。こういう話を聞くと、漢字の世界って面白いと思いませんか? 書き取りや画数、筆順などだけを学んでいては、漢字を楽しむことはできない。そんなことは一旦忘れて、もっと大らかな文字論を開いていくと、豊かに広がる世界がいっぱいあるんです。そこに一歩足を踏み入れることができれば、漢和辞典に親しんでみようという気持ちも湧いてくるんじゃないかと思います。      (おわり)

『角川新字源』 23年ぶりの大改訂! 校正者・境田稔信氏に聞く

辞書研究家・校正者の境田稔信氏――「辞書・辞典」業界では、その名を知らない人がいないかもしれない。名だたる辞典の校正・編集に携わり、これまで関わってきた辞書は、三十冊に及ぶ。自費で買い集めたコレクションが、驚異的である。六千冊もの辞書が、自宅マンションの部屋に、ぎっしりと収められている。百科事典など十巻以上のシリーズも、揃いで「一冊」とカウントしているので、実際はこの数を遥かに超える。ご本人も「最近は、データ作成を怠り気味なので、正確な冊数はわかりません」と苦笑い。中でも、日本初の近代的国語辞典といわれる『言海』は、二六〇冊を数える。
「最初は、四種のサイズを一冊ずつ持っていたのですが、版(当時は刷のこと)違いも揃えるようになりました。増刷する際に手を加えられていることがわかり、それらすべてを購入していった結果、ここまで増えてしまったわけです」
これだけ収集をつづけていると、“珍事件”に遭遇することもあった。二冊のまったく異なる辞書の内容が同じであるのを、境田さんは発見する。出版社やタイトル、監修者が違うにもかかわらず、中身はほぼ一緒で、その後集めていくうちに、同種の辞書が十冊は存在することが判明した。昭和五年から十年にかけて集中しているところまでは調べがついたが、その理由は、境田さんにも見当がつかないという。

そもそも境田さんが、この世界にのめり込みはじめたのは、二十歳を過ぎた頃のこと。校正者として仕事をはじめたのがきっかけだった。
「自分が気になった言葉や、書誌的な正確さを確かめるためには、現在出ている辞書だけでは物足りない、どうしても調べきれない部分が残ります。それを解消するために、明治時代の古い辞書などを求めて、古書市や神保町の古本屋を探しまわるようになりました」

以来三十数年、年間の図書購入費が二五〇万を超えたこともあり、現在も「境田コレクション」は日々増殖中である(ほぼ二日に一冊のペースで増えているという)。
境田 稔信氏
境田さんが『角川新字源改訂新版』に関する仕事を依頼されたのは、およそ五年前に遡る。今回は、主に漢和辞典の「肝(キモ)」ともいえる「親字表」の校正を担当した。国語辞典を作る際には、最初に「収録項目リスト」を決める。漢和辞典の場合、「親字表」がこれにあたる。大本の見出しとなる文字を洗い出す作業である。
「印刷所の組んだ親字表と、もともと手書きで記されていた原稿を、編集部からもらいました。印刷所の持つ活字が原稿の意図する字形を正しく反映しているかどうか。元々の手書きの漢字に問題がある場合もありますし、活字の字形がよくないということもあります。これらを総当たりでチェックしていく。あるいは偏や旁などパーツの整合性がとれていないものもあります。払うのか止めるのか、基本的に同じパーツは同じ形であるべきで、少しでも違えば、別の文字になってしまう可能性がある。ここは漢和辞典の肝心要の部分になってきますから、細心の注意を払って見ていかなければなりません」
「親字表」の作成・校正だけで、編集部とのやりとりは四往復、二年かけて行なわれた。そして細かく整理された後、さらにゲラチェックは、八校にまで及んだ。編集工程が校正だけで五年かかった理由の一端はここにある。
「この字は本当にこの形でいいのだろうかと、別の資料にあたりながら、間違いがなければ、それで納得する。細かい疑問をひとつずつ解消していく、そうした積み重ねの結果、自分の知識も増えていく。日々勉強ですね」

最後に、新しくなった『角川新字源』の利用法を、境田さんにもたずねてみた。
「ひとつは、漢字のなりたちに注目して読んでいくのをお勧めします。漢字はどうやってできたのか、そのなりたちから見ていくと、本来の意味が理解できます。あるいは共通する部首の漢字をまとめて見ていく。同じ部首であれば、なんらかの関係があるわけです。その辺から、漢字への理解が深まっていくのではないでしょうか。一文字一文字を別個に覚えるのではなく、繋がりで覚えていく。常用漢字などは、新字体になってしまったために、繋がりがわかりづらくなっているケースもあります。しかし古い字体を見れば、理解しやすく覚えやすい。今回の改訂では、甲骨文字や金文などの古代文字もかなり載せていますから、それも合わせて見ていくことによって、一層理解しやすくなっていると思います。漢和辞典に関しては、『新字源』を一冊持っていれば、まず大丈夫でしょう。この小さなサイズで、大きな辞典に匹敵する内容が含まれている。漢和辞典の「最終進化形」と呼ぶに相応しい。それぐらいのものになっていると、私は思います」

この記事の中でご紹介した本
角川新字源 改訂新版/KADOKAWA
角川新字源 改訂新版
編集者:境田 稔信、阿辻 哲次
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月27日 新聞掲載(第3212号)
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