決定! 第八回山田風太郎賞 池上永一『ヒストリア』(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年10月27日

決定! 第八回山田風太郎賞
池上永一『ヒストリア』(KADOKAWA)

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ヒストリア(池上 永一)KADOKAWA
ヒストリア
池上 永一
KADOKAWA
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第八回山田風太郎賞が、十月二十三日の選考会の結果、池上永一『ヒストリア』(KADOKAWA)に決定した。選考委員は奥泉光、京極夏彦、筒井康隆、林真理子、夢枕獏の五氏で、会見では京極氏が選考経過を伝えた。
「今回も白熱した闘いになりました。ただし、どの作品も同じぐらいマイナス点が指摘されもしました。受賞作である『ヒストリア』も同様です。ただ圧倒的なスケール感と情報量を小説として捌いていく手並み、小説としての深みが、他の四作品より抜けていたのが受賞の理由となります。米戦時代を題材に、沖縄、ボリビア、キューバという非常に広いスケールで、一人の女性の半生を描いた、その大きな枠組みをあふれさせるほどの情報量。これはなかなか処理できるものではございません。ただ例えば、プロレスの記述に関しては首を傾げるところがある。あるいは「マブイ(魂)」という概念に関してこれでよいのか、というような指摘もありました。がそれらは、骨太な骨格を侵害するものではないだろうと。沖縄ではまだ戦争が続いている、というメッセージがきちんと伝わってまいりますし、そこは他の作品の及ばなかったところだと思います。

他の候補作品もどれも汲むところがあり、森見登美彦『夜行』は作品としては申し分なく、完成度が高い。けれど小さくまとまってしまった感がありました。とはいえこの作品はこれでいいのですが。澤田瞳子『腐れ梅』は、北野天神縁起の読み替えであり、あまり扱われない時代を扱った。しかも生き生きと描かれている。しかし言葉の細かい使い方や、主人公の性格設定に題材とそぐわないところがあるのではないか。それは木下昌輝『敵の名は、宮本武蔵』にも言えることで、史実としての宮本武蔵を読み替えるというコンセプトと、剣豪小説的な面白さが拮抗して、それぞれの魅力を相殺してしまうようなバランスの悪さがあるのではないか。もう一作、柚月裕子『盤上の向日葵』はしぶとく最後まで受賞作と闘いました。表現、ストーリー、細かい情報処理の仕方、題材、申し分ない。リーダビリティも高く、ある種の感動を各所で呼び起こす巧みな小説になっている。ただし、ミステリーとして捉えたときに、やや不備がある。これはミステリーとして描かれない方が質のいい小説になっていたのではないか。力量があるのですが、枠組みに囚われ過ぎることによって、プロットがストーリーを侵害するところが散見した。次の作品への課題になるのではないか。ということで、僅差で『ヒストリア』が受賞しました」。
池上 永一氏
受賞者の池上氏は「受賞を聞いたとき最初に思ったのが、ボリビアのコロニア沖縄の人々が喜んでくれるといいな、ということでした。二〇一五年に取材したとき、日系三世たちが、コロニア沖縄のことを、沖縄に伝えて欲しいと。故郷への思いがひりひりするぐらい伝わってきて、小説を書いてそれが本当に伝わるの、と言われたときに、戸惑いました。帰り際に僕は、必ず伝えるからと言ったのですが、約束しなければよかった、とも少し思っていたんです。でも今は少しだけ、彼らに伝えたよ、と言えるかなと思っています」と語った。

この記事の中でご紹介した本
ヒストリア/KADOKAWA
ヒストリア
著 者:池上 永一
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月27日 新聞掲載(第3212号)
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