RED ヒトラーのデザイン / 松田 行正(左右社)なぜいま、ヒトラーなのか  答えは日々のニュースにある|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年10月28日

なぜいま、ヒトラーなのか 
答えは日々のニュースにある

RED ヒトラーのデザイン
著 者:松田 行正
出版社:左右社
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この色、このタイトル、ただ事ではない。第三帝国の野望を、デザインの力を知り尽くした「クリエイティブ・ディレクター」アドルフ・ヒトラーの視点から暴きつくす、圧巻の一冊である。ナチスのデザインや建築について書かれた本は、国内外にあまたある。その多くは言うまでもなく政治とプロパガンダの歴史を知るための重要な研究だが、本書はそれらとは一線を画しており、もしかすると欧米では不可能ではないかとさえ思わせる。

理由のひとつは、膨大な画像資料を詳細に解析し、一冊の書物としてまとめあげている点にある。ファッションに始まり、デザイン、グラフィック、ハーケンクロイツ、そしてファシズムと直線性の関係を抉るラインまで全6章に配置された図像群は、これまでに見たことのないような充実度で、大展覧会のカタログと錯覚しそうだ。実際に表紙、カバー裏の写真から、ドキリとさせる小口の処理まで、展覧会としての本として設計されているように思えるのだ。

だが造本もさることながら、この本の真にユニーク点は、「ヒトラーのデザイン」というテーマが全編にわたり映画を通して描かれているところにある。ナチス時代に作られたプロパガンダはもちろんのこと、戦後の作品から『スターウォーズ』や『キャプテン・アメリカ』のようなハリウッド大作まで、ふつうは気がついても忘れてしまう細部に、ヒトラーのデザインが読み込まれてゆく。軍服のデザインやベルリン・オリンピックなどの演出も含め、群衆を陶酔に陥れるマインドコントロールの、総合的メディアこそが映画だったということだろう。

しかしなぜいま、ヒトラーなのか。答えは日々のニュースにある。去る9月24日に投開票されたドイツ連邦議会(下院)選挙でメルケルは4戦を確実にしたが、世界を不安に陥れたのは、「ドイツのための選択肢(AfD)」に代表される右翼政党が大躍進し、議会第三党になったことだ。欧米で吹き荒れるポピュリズムとは距離を置いていたと思われるドイツで、ついに悪夢が現実化したのである。ドイツのガブリエル外相は選挙前の取材に、次のように答えていた。

「第二次大戦終戦以来、はじめてドイツの国会議事堂にまぎれもないナチスが入ることになる。」

トランプ政権下で白人第一主義を掲げる右翼団体やネオ・ナチが勢力を拡大していることも無縁ではない。ドイツ外相の危惧に明らかなのは、ヒトラーやナチスという名が、これほど日常的にニュースに流れる時代は、第二次大戦以来ということなのだ。ドイツと日本は歴史認識においてよく比較されてきたが、ドイツで起きるとすれば、日本でも同様の事態が生じてもおかしくはない。

ヒトラー的デザイン戦略は、実は日本において、作動するのではないか。本書でも2013年時の麻生首相による「憲法改正のためにナチスに学べ」発言が取り上げられている。帯にある「日常にひそむ扇動」は、実はすでに進行中なのかもしれない。警戒色の本書は、したがって軍事的緊張の高まるこの国にとっても、アクチュアルな一冊になりそうである。

この記事の中でご紹介した本
RED ヒトラーのデザイン/左右社
RED ヒトラーのデザイン
著 者:松田 行正
出版社:左右社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月27日 新聞掲載(第3212号)
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