アカガミ / 窪 美澄(河出書房新社)窪 美澄著『アカガミ』 都留文科大学 荒木 香那子|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年10月28日

窪 美澄著『アカガミ』
都留文科大学 荒木 香那子

アカガミ
出版社:河出書房新社
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アカガミ(窪 美澄)河出書房新社
アカガミ
窪 美澄
河出書房新社
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アカガミ。それは、《二〇二〇年を境に急増した若者の「性」離れに対して、国が設立した結婚・出産支援制度》であった。

主人公ミツキは「性」にも恋愛にも興味がなく、むしろ気持ちが悪く感じていた。生きる意味が見いだせず、自殺をしようとしていたところ偶然通りかかった国家公務員の女性ログに勧められ「アカガミ」に参加することを提案される。アカガミの参加資格は限られており、国に直接指名された人か、身分保証人がいること。さらに、厳密な健康診断や問診など狭き門である。無事に受領書を受け取ったミツキにアカガミでの保護された生活が始まる。

《若者の多くは恋愛をしないし、結婚もしない、そして子どもを持とうとはしなかった。一人で過ごすこと、一人で生きていくことを、多くの若者は望んだ。》物語が始まる前に書かれたこの一節。まさに今の私に近いのではないか。とはいえ結婚したい気持ちがないわけではない。家族もいずれ私は結婚すると思っていて、孫やひ孫を見たいと望んでいるはずだ。私自身、家庭を持ち、女性に産まれた特権として子どもを産んでみたい。

だが、新しい挑戦は苦手だ。かっこいいと思われたい。何事も成功したい。私が思い描く将来は、幼い頃から夢見た職に就き、休暇には旅行に行き、家ではDVD鑑賞などの趣味に没頭している姿だ。夢が叶うなら子どもは要らない。でもどこか寂しい。人生が2つあればいいのにと日々葛藤している。けれどSNSでキラキラ輝いた私生活を「イイネ」して、なにか失敗すればすぐに拡散されてしまう、そんな現代を生きる多くの若者もまた、葛藤しているのが現実なのかもしれない。

アカガミ、赤紙、それはかつて軍の召集令状。私がこの本を読み終えたとき、国によって保護された生活に隠された真実に恐怖を感じた。そして同時に、私自身が社会全体から結婚や出産を強く誘導されていることに恐怖さえも感じた。女性が子どもを産むのは国のためなのか。女性が我が子に与える愛は国のものなのか。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。真実を知ってしまったミツキはこれから幸せな人生を歩んでいくのだろうか。

本書は、フィクションであると言い切れないくらい近い将来を暗示している。本書だけでなく、このような未来を予測する作品(村田沙耶香『消滅世界』二〇一五 河出書房新社)などが近年多く出版されていることにも恐怖を感じる。

考えてみれば私が結婚、出産を強く望まないのは、自分の仕事への影響を懸念するのが最大の理由である。仕事をする既婚女性にとって、この社会はなんだか生きにくい。夫の稼ぎが少ないのか、家庭は大丈夫なのかと好奇の視線が向けられる。出産も、簡単に育休・産休を取ることが出来ず、休暇を取ったことで復帰できず辞めざるを得ない状況になることもある。もし仕事も結婚・出産も保障されるのならば私は、迷わず結婚し、子どもを産んで仕事も続ける。だから、女性が働きながらも? 産む性として国から庇護される? 『アカガミ』の世界は、恐怖の中に羨ましさも感じたのだった。

この記事の中でご紹介した本
アカガミ/河出書房新社
アカガミ
著 者:窪 美澄
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年10月27日 新聞掲載(第3212号)
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