夢をのみ 日本SFの金字塔 光瀬龍 / 立川 ゆかり(ツーワンライフ)作品を読む新たな視点を提供  SFファンならば興味深い事実も明らかに|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月4日

作品を読む新たな視点を提供 
SFファンならば興味深い事実も明らかに

夢をのみ 日本SFの金字塔 光瀬龍
著 者:立川 ゆかり
出版社:ツーワンライフ
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今から五〇年前の一九六七年。日本SFがまだ若く、英米の影響が圧倒的に強かった時代に、ある一冊の長篇SF小説が出版された。『百億の昼と千億の夜』である。「ナザレのイエス」や「阿修羅王」が登場し、神や救済をテーマにした壮大なスケールのこの作品は、西洋的なSFと東洋的無常観を融合させた傑作として、今もなお日本SFオールタイムベストの呼び声が高い(SFマガジンでの二〇〇六年度のアンケートでは第一位、二〇一四年度は第三位)。

ところが、その作者である光瀬龍がどんな人物か、ということになると、それほど知られているとは言いがたい。光瀬自身、SF関係の集まりにはあまり積極的には顔を出さず、さらにプライベートはあまり明かさない作風だったため、これまでその素顔は謎に包まれていたのだ。

本書は、光瀬龍とゆかりの深い岩手県に育ち、光瀬を「恩師」と呼ぶ著者による、光瀬への敬愛のにじみ出た評伝である。光瀬夫人の全面協力のもと、未公開の日記や、光瀬と夫人との往復書簡などをも利用して書かれている。そのため、作家としての側面よりも、むしろ恋愛や家庭人としての側面により重点が置かれた評伝になっている。

光瀬作品にたびたび登場する聡明で活発な美少女のモデルが奥さんだという微笑ましい話や、リーミンというヒロインの名が、演劇青年時代に書いていた、インドシナ戦争を題材にした未完の戯曲に登場するベトナム人美少女に由来することなど、光瀬ファンならずとも、SFファンならば興味深い事実も多数明らかにされている。

中でも、大きな紙幅が割かれているのが代表作『百億の昼と千億の夜』である。この作品について、生前の光瀬は、つねづね「私小説」であると語っていたという。これについては、すでに宮野由梨香が評論「阿修羅王は、なぜ少女か――光瀬龍『百億の昼と千億の夜』の構造」で詳細に論じているが、著者はそれを踏まえた上で、日記や構想メモを援用してまた違った解釈を提供している。どちらが正しいかという詮索はあまり意味はないだろう。そのいずれもがそれぞれの著者の解釈であり、当然ながら作者の思いも一つではないはずだからだ。

作家、女子校教師、家庭人といくつもの顔を持ち、それらをはっきりと分けていた光瀬だが、本書を読むと、私生活の側面がいかに創作に影を落としていたのかがわかり、驚かされることも多い。すぐれた評伝は、その作家の人生を語ることにより、作品を読む新たな視点を提供するが、この本はまさに光瀬作品をまた読み返したくなってくる評伝に仕上がっている。

小松左京、眉村卓、筒井康隆ら、日本SF黎明期に活躍した、いわゆる第一世代の作家たちについては、これまで伝記的な文献は、それほど多くはなかった。本書は、日本SF第一世代作家の本格評伝としては、最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』に続くものである。日本SFの礎を築いてきた作家にはすでに物故者も多く、当時の空気を知る者も、少なくなりつつある。今後も、こうした評伝が書かれ、日本SFに新たな光が当てられることを期待したい。

この記事の中でご紹介した本
夢をのみ 日本SFの金字塔 光瀬龍/ツーワンライフ
夢をのみ 日本SFの金字塔 光瀬龍
著 者:立川 ゆかり
出版社:ツーワンライフ
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月3日 新聞掲載(第3213号)
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