スナックちどり / 吉本 ばなな(文藝春秋)『スナックちどり』 よしもとばなな著 明治大学 秋田 珠希|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年11月4日

『スナックちどり』 よしもとばなな著
明治大学 秋田 珠希

スナックちどり
著 者:吉本 ばなな
出版社:文藝春秋
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大学生は、不安である。

目の前のことに一生懸命になっているうちに、就活は音もなく近づいてくる。近いうちに将来のことを決めなければならない。でも、受験とは違って何をすれば正解というものはない。目指すゴールが見えない。それでもなんとかして職に就かなければならない。居場所を失ってしまうかもしれない。怖い。

これは、多くの大学生の現状だと思う。

「スナックちどり」の登場人物たちは、大学生が目指したいゴールとは、ほど遠いところにいるように見える。「私」は、四〇歳の目前で離婚して仕事も辞めざるを得なくなっている。「私」の幼馴染で従妹のちどりは、親代わりだった祖父母を亡くしたばかりである。「スナックちどり」は、自分の居場所を失くした二人が、イギリスの田舎町、ペンザンスに小旅行するという物語だ。

「孤独」は、誰もが一番と言っていいほど恐れているものである。「孤独」を恐れ、無理して人に合わせる人もいるくらいだ。「私」はその「孤独」を経験してしまう。家庭では夫とうまくいかない。同じ会社で働く夫が活躍していたため、会社にも居場所がなくなったことも思い知る。実家に帰っても、両親は歓迎してくれるものの、もうほんとうの意味での居場所はないことを実感させられる。やり直すと言っても、四〇目前となると、「この先どうするの」と心配されてしまう。

だが、「私」は決して不幸には見えない。淋しさは感じていても、いつも希望を探そうとする。ペンザンスに降り立った時、「くたびれてはいるけれど、心は自由になったような感じだった。」と言っているほどだ。「一般的に考えたらかなり絶望的なことなんだろうなあ」と、自分の状況を冷静に分析しているにもかかわらず、である。

ちどりと「私」は、他にも一般的に受け入れられにくいことを受け入れる発言をしている。具体的には不倫や同性愛についてだ。もちろんモラルが無くていいというのではない。ただ、その人のありのままの生き方を尊重しているのである。

現代は、「こういう状態でなければならない」と暗黙のうちに決められていることが多い。大学生の不安は、社会の主流に乗らなければならないというプレッシャーから来ているところが大きいだろう。暗黙の了解に従わなければ受け入れてもらえない。だから自分を曲げてでも従おうとする。

でも、主流に乗れなくてもいいじゃないかとこの物語は呼びかける。主流に乗る人たちを否定するわけではないが、そこから外れたとしても別にいい。たとえ一時孤独になっても、また新たな居場所は見つかる。それよりももっと大切な事は他にあるのだから、と。

「こういう状態でなければならない」という不安や焦りから解放され、自分を見つめ直す。それがきっと、自分を取り戻すという事なのだろう。

この記事の中でご紹介した本
スナックちどり/文藝春秋
スナックちどり
著 者:吉本 ばなな
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月3日 新聞掲載(第3213号)
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