かつらの合っていない女 / レベッカ・ブラウン(思潮社)「烈しさ」を感じる絵画と文章の対話  レベッカ・ブラウンの新たな世界に浸る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月11日

「烈しさ」を感じる絵画と文章の対話 
レベッカ・ブラウンの新たな世界に浸る

かつらの合っていない女
著 者:レベッカ・ブラウン
出版社:思潮社
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本書は、画家ナンシー・キーファーと作家レベッカ・ブラウンによる共作で、二人の魅力が発揮された奥深い短編集となっている。

本書が生み出されるまでの独特でクリエイティブな手法をご紹介したい。「まずはじめにあったのは、絵だった。(中略)(キーファーは)思い浮かぶあらゆるたぐいの顔を、描いては捨てる作業をくり返し、一年経つと、十五枚の小さな肖像画が出来上がっていた。それを展覧会で見た、かねてから知り合いだったレベッカ・ブラウンが、これに合わせて文章を書きたい、と申し出たのである。(中略)出来上がった文章はあくまで、絵と対等の立場に立った「対話」であり、むろんそれこそ画家の望むところだった」(「訳者あとがき」より。以下、「あとがき」と略記。)とのことだ。

読者は、各短編の最初に一枚ずつ描かれたキーファーによる大胆な色使いの絵を目にし、そのあとブラウンの言葉の世界に入っていく。

十五枚の絵はすべて人の顔を描いているが、どの表情にもにこやかさや穏やかさはない。目を閉じている絵にさえ、何か厳しいメッセージが込められているかのようだ。

そして十五作の短編がそれぞれ独特のリズムと文体で展開する。やや抽象的で含蓄がありながらかつ強烈な印象を残す話や、前後で互いにつながりがあるのではないかと思わせる話もある。絵と合わせて読むことで、読み手は違った解釈や印象を持つことだろう。

巻末の絵画リストには各絵画の作品名などがまとめられている。これらによってキーファーが何をイメージして描いたのかを理解できるかもしれないし、ときに抽象的な表現をするブラウンの文が何を表しているのかを想像できるかもしれない。

たとえば短編「いつかある日」のキーファーの絵を眺めていると、絵の人物の大きな目に見つめられているような気分になる。それからブラウンの文章に目を通す。「(前略)不利をこうむる人はいなくなるだろう。劣っていたり違っていたりする人もいなくなるだろう(以下略)」深みのある表現や反復などのリズムを心に刻みながら、それを読み終える。そして絵画リストを見ると、この絵のタイトルが「髪のない女の子」だとわかる。文章も含めてどう感じるかは人それぞれだが、あるいは収容所や刑務所をイメージする読者もいるかもしれない。

短編「巡礼」。このキーファーの絵は赤鬼のようにも見える。「国の真ん中に 恐ろしい場所がある。たどり着くのは困難 去るのは不可能。そこへ行く道はない だから私は行った(以下略)」絵画リストによると、作品名は「スミレ色」である。どんな思いがあってこの色を選んだのだろうか。また想像が膨らむ。

さらに、本書の全短編を読み終わってから巻末の謝辞に目を通すと、何かしらはっとすることがあるかもしれない。

それにしても美しい本である。百ページほどの中に色彩豊かな絵をふんだんに取り入れ、表紙も含めて非常にセンスのよい外観だ。この美しさに惹かれてページをめくれば、二人のそれぞれの作品の特徴である「烈しさ」(「あとがき」より)がぶつかりあうことなく見事に共存していることを見て取り、驚きと感動をおさえることができないだろう。絵と言葉の間を行き来することで、新たな視点と思いを得るに違いない。絵画と文章の彩り豊かな対話が愉しめる珠玉の一冊だ。(柴田元幸訳)

この記事の中でご紹介した本
かつらの合っていない女/思潮社
かつらの合っていない女
著 者:レベッカ・ブラウン
出版社:思潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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