現代思想のなかのプルースト / 土田 知則(法政大学出版局)双方的な共鳴関係を検討  「文学と哲学」の二項対立を脱構築|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月11日

双方的な共鳴関係を検討 
「文学と哲学」の二項対立を脱構築

現代思想のなかのプルースト
著 者:土田 知則
出版社:法政大学出版局
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プルーストは凄い作家である。二十世紀前半の小説家で、必ずしも読みやすいわけではないのに、現在進行中のものも含めて、文庫の翻訳が日本で四つも出版されている。出版不況が叫ばれている今日、これは異例とも言うべきではないだろうか。

実際、プルーストに関心をもち、その影響を受けた作家や思想家の数は多い。かつて蓮實重彦は『批評あるいは仮死の祭典』で、一九七二年パリで開かれたシンポジウム「プルーストとヌーヴェル・クリティック」をとりあげて、「解読不能な環境としてあるプルーストを前にした眩暈」をバルトやドゥルーズらが論じているさまを紹介している。しかし、この頃からプルーストについての研究は、草稿から決定稿に至る過程を読み解く生成研究が盛んになり、「ヌーヴェル・クリティック」のプルーストはしだいに後景に退くようになっていった。だが近年、プルーストと他の作家や思想家との関係も再び注目されてきており、二〇一〇年と一二年にブラーミが編纂した論文集がフランスで刊行されたし、また、二〇一四年には明治学院大で行われたシンポジウム「プルーストと二十世紀」(『言語文化』(32)所収、明治学院大学言語文化研究所)では、プルースト研究者と他の作家の研究者が一堂に会して討議をした。『現代思想のなかのプルースト』もこういった新しい流れのなかに位置づけることができるだろう。

この著作のなかで論じられている思想家は、ベンヤミン、バタイユ、レヴィナス、バルト、ド・マン、ジラール、ミラーといった錚錚たる面々である。そこで語られていることは基本的に、彼らがプルーストをどう読んだか、どういう影響を受けたかであるが、ここで注意すべきは、著者の土田の狙いがただの影響関係の検証とは一線を画しているということである。ふつう文学と哲学、文学と思想を論じる場合は、文学作品から哲学的内容を取り出したり、文学作品を思想の実践の場にしたりするような、一方向的な読解が支配的であったのだが、土田の試みている読解は双方向的で、プルーストとこれらの思想家とがどう共鳴しあっているかを、両方のテクストを検討しながら論じることにあるのだ。

例えば、ドゥルーズはプルーストのテクストの読解を通して「ロゴス的・合理的哲学」と対決するために必要な思考法を手に入れた。後に『差異と反復』で緻密に展開される「差異」の考えも、『失われた時を求めて』のなかのアルベルチーヌ、性、無意識的記憶の描写に内在する「差異」や「内的差異」に触れることで形成されていったのだ。それと同時に、プルーストの側も変化してくる。つまり、プルーストのテクストの見え方も変わってくるのだ。『失われた時を求めて』は無意志的記憶を提示する物語と誰もが思い込んでいたのが、ドゥルーズの読みを経ることで、シーニュの習得の物語として見え始める。影響を受け変化を被るのは、ドゥルーズのテクストばかりでなく、プルーストのテクストでもあるのだ。

土田の試みは、「文学と哲学」の二項対立を脱構築していくこと、あるいは両者の間の〈と〉がもつ多様性を肯定していくこと、と言えるであろう。これは文学や哲学がそれぞれの同一性に安住することを揺さぶるとともに、両者の関係が階層的になることに疑問を向けることでもある。さらに土田は、八人の思想家のプルースト論を読みながら、彼らのテクストを「読み手=書き手」の視点で間テクスト的に接続しようとしている。こういった試みは、プルーストを通して現代思想を論じるとともに、現代思想のもたらしてくれた成果を実践することでもあるだろう。

今日、「間テクスト性」も「読み手=書き手」という発想も流行の先端にはない。しかし、現代思想の豊かな成果を過去のものとするのではなく、どう受け継いでいくべきかを考えるときがきているのではないのか。『プルーストと現代思想』は、そのための格好の手引きと言えるであろう。

この記事の中でご紹介した本
現代思想のなかのプルースト/法政大学出版局
現代思想のなかのプルースト
著 者:土田 知則
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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