不当な債務 いかに金融権力が、負債によって世界を支配しているか? / フランソワ・シェネ(作品社)「金融の武装解除」に向けて 金融権力への「自発的隷属」を認識すべき|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月11日

「金融の武装解除」に向けて
金融権力への「自発的隷属」を認識すべき

不当な債務 いかに金融権力が、負債によって世界を支配しているか?
著 者:フランソワ・シェネ
出版社:作品社
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第二次大戦の戦費調達のために肥大化した世界の公的債務は、戦後の高度経済成長のなかで一貫して減少してきたが、「資本主義の構造的危機」と呼ばれた一九七〇年代を境に増加傾向に転じた。二〇〇八年に起きたリーマン・ショックを契機とする世界的危機は、この傾向に拍車を掛けた。金融機関を救済するために各国政府が巨額の公的資金を投入したことと不況により税収が減少したことによって公的債務が大きく膨らんだのである。そうした状況下で明るみになったギリシアによる財政赤字隠しは、金融市場を動揺させ、いわゆるソブリン危機を引き起こした。

日本の公的債務残高は、ソブリン危機の引き金となったギリシアと比べてもはるかに高く、対GDP比で二五〇%を超えている。ヨーロッパで起きた危機は、日本が抱える膨大な公的債務に対する不安を掻き立て、財政を健全化することによって公債の膨張に歯止めをかけることが喫緊の課題と言われるようになった。財政赤字を解消するために歳出を削減することが不可欠であり、また、消費税増税はいずれ不可避であるということについては、党派を超えて見解の一致を見ている。

こうした見方は日本だけでなく、世界的にも常識となっているが、本書の著者フランソワ・シェネは、これに異を唱える。シェネは、各国が抱えている債務の多くは、正統性のない「汚れた債務(dettes odieuses)」であると断じる。「汚れた債務」とは、「合意なしに、債権者側がその理由を知り尽くしていながら、ある国家の住民たちの利益に逆らって強制的に結ばされた契約に基づく債務」である。以下、シェネの主張の骨子を簡単に紹介しよう。

「汚れた債務」の典型はギリシアの公的債務である。ギリシアの債務は、かつての軍事独裁政権が強制的に結んだ契約に始まり、文民政権下でも富裕層に対する減税措置や組織的腐敗と結びつきながら膨らみ続けた。二〇〇四年のアテネ・オリンピックに関わる支出と二〇〇〇年代後半に急増したフランスやドイツなどからの武器輸入のための支出は、債務残高をさらに押し上げた。ギリシアの公的債務は、明らかに「国家の住民たちの利益」に反して結ばれたものであるにもかかわらず、国民がその返済のための負担を強いられているという意味で、正統性のない「汚れた債務」である。

「汚れた債務」を抱えているのはソブリン危機の火種となったギリシアだけではない。一般的に言って、「資本への貢物という特徴を持つ高い費消」、「直接税率の水準の低さやきわめて弱い累進性」、「かなりの額に及ぶ脱税」という3つのメカニズムによって生じた債務は正統性をもたない。フランスを含めた先進国の公的債務の多くはこれに該当する。

「汚れた債務」が累積してきた背景にあるのは、一九八〇年代以降の金融の自由化であり、それにより金融機関は国債を大量に保有するとともに、リスクの高い証券投資によって債務依存の成長をつくりだした。権力を握った金融機関は、危機が起きて資産が「有毒」化すると政府に救済を求める一方で、政府には国債の暴落を防ぐために支出を切り詰めるよう要請してきた。金融機関がそれと知りながら貸し付けた「汚れた債務」に対し、「借金つけを払うのは道義的義務である」ことを認めるのは、金融権力に「自発的〔に〕隷属」(ラ・ボエシ)することにほかならない。

正統性のない「汚れた債務」は再編ではなく、破棄されるべきであるとシェネは主張する。債務の再編には債権者との交渉が不可欠であり、債権者から代償を求められることになるからである。不当な公的債務を破棄するとともに、銀行を社会化し、税の利用と投資を民主的に管理することによって「金融の武装解除」を行わなければならない。金融権力への「自発的隷属」に無自覚なこの国においてこそ、シェネの提言には耳を傾ける価値があると言えよう。(長原豊・松本潤一郎訳)

この記事の中でご紹介した本
不当な債務 いかに金融権力が、負債によって世界を支配しているか?/作品社
不当な債務 いかに金融権力が、負債によって世界を支配しているか?
著 者:フランソワ・シェネ
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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