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漢字点心
2017年11月14日

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耳で音を「きく」ことを表す漢字には、「聞」と「聴」がある。「聞」は広く一般的に「きく」ことを表すのに対して、「聴」は、意識して「きく」ことを指す。だから、音の方から耳に入ってくることを意味する「きこえる」は、「聞こえる」と書き、「聴こえる」とは書かない。

以上は、漢字の使い分けではよく語られる説明で、ぼく自身も、辞書にそう書いたことがある。しかし、奥泉光『シューマンの指』を読んでいたら、そうとばかりは言えない気持ちになってきた。語り手は、かつてはピアニストを目指し、音大にまで進んだ男。彼は、シューマンのピアノ曲を「清澄な歌声だけが聴こえてくる」と評する。そして、その曲が「音楽室から聴こえてきた」とも。

「聞こえる」と同時に「聴く」。それは、語り手のこの曲に対する態度を、実によく表現しているのではなかろうか。こういう漢字の使い方に出会うと、「辞書」の限界をつくづく感じてしまうのである。

2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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