鼎談=雨宮処凜×片山杜秀×大澤聡 90年代とはどんな時代だったのか 『1990年代論』(河出書房新社)刊行トークイベント採録|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2017年11月10日

鼎談=雨宮処凜×片山杜秀×大澤聡
90年代とはどんな時代だったのか
『1990年代論』(河出書房新社)刊行トークイベント採録

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第4回
「新宿 所持金ゼロ」で検索すると

片山 杜秀氏
片山 
 一九九四年にNHKで『週刊こどもニュース』がはじまります。子ども向けに説明されても大人も追いつけない。そのくらい世の中が難しくなっていきますね。
大澤 
 それをひっくりかえして表現すると、みんな子どもレベルの教養になってしまった(笑)。
片山 
 今の政治を見ていると信じられないようなことばかり起こっているでしょう。九〇年代にはそれが予兆として現われていた。けれど、まだごまかせていた。雨宮さんがさまよっていたころ、私は博士課程を出ても就職口がなくて世の中に捨てられた感じでした。ライターとして週刊誌や新聞に記事を書いたり、CDのライナーノーツの執筆なんかをやったりしていた。最初のうちは同年代のサラリーマン程度の収入はあるんだけど何年やっても増えない。でも、妻の収入のおかげでそれなりに暮らせていた。九〇年代はヒモでしたね。ただ、先の人生を心配していたかといえばまったくそんなことはなかった。
大澤 
 なんとかいけるだろうという時代だった。
片山 
 七〇年代から存在した九〇年代論として「ノストラダムスの大予言」がありましたが、あれを信じたジェネレーションだからかもしれません(笑)。どこかでそろそろ終わりが来るだろうと思っていたんですよ。だけど、終わらなかった。
大澤 
 まさに終わりなき日常。
雨宮 
 それでも、片山さんの時代はまだ仕事があったほうですね。今は雑誌もどんどんなくなっていくし、ネットだと原稿料なしの仕事もたくさんある。
大澤 
 やりがいだけが搾取されていく。
雨宮 
 今の私の周りには非正規の人間が多いですが、九時―五時で毎日働いても平均年収は一七〇万円くらい。九〇年代とは前提がぜんぜんちがっている。
片山 
 すっかり壊れていますね。
大澤 
 かつてもきつかったとは思うけど、今は質も条件もずいぶんちがいますよね。
雨宮 
 九〇年代のきつさにはまだ「自分探し」の部分がくっついていました。二〇〇五年くらいから自分と同世代のホームレスを街で見かけるようになって、すぐに「ネットカフェ難民」が出現した。でも最初はみんな自分の状況を理解していなかった。好き勝手、破天荒に生きていたらこうなっちゃいました、と。
大澤 
 ボロボロの服を着て段ボールを抱えて路上で眠る、絵に描いたようなホームレスではないから自覚も少なくて、なかなか危機感がともなわない。
雨宮 
 まだ余裕があると思っている。見た目に気をつかっているけど、気がついたときには牛丼を食べるお金もない。自分がホームレス化したことに気づかないホームレスが現れたのは戦後はじめてのことなんじゃないでしょうか。派遣村以降はいろいろな情報が知られるようになりました。今も私のところにメールがくることがあります。
大澤 
 どうやったら雨宮さんのところまで辿りつくんですか。
雨宮 
 ネットで「新宿 所持金ゼロ」で検索すると私の名前がヒットするんですよ(笑)。
大澤 
 なんと(笑)。
雨宮 
 私が何者かはわかってない人もいますが、実際に会って生活保護申請を手伝ったりしています。九〇年代はうつ病の若者が生活保護の申請に行ってもほとんど突き返されていました。だから、実家に戻って親と壮絶なバトルを繰り返すか自殺するしかないような状態。うつ病への世間の理解もないから、メンヘラの人たちは生存闘争として生活保護申請の情報を内輪で共有していた。うまくいく人といかない人の差は窓口の職員の対応だけ。生活保護申請を断られての自殺は、思えば私が貧困問題に関わる前の九〇年代からメンヘラ界隈ではあった。
片山 
 まさに制度的な殺人ですね。
大澤 
 気づかない人間が悪いとされる。九〇年代は自己責任論が盛りあがりました。
片山 
 ゼロ年代の小泉政権下ではさらに拍車がかかりましたね。
大澤 
 九〇年代のフリーターにはまだ段階的な選択肢やセーフティネットがあった。けれど、今は気づいたときはもう手遅れ。

この記事の中でご紹介した本
1990年代論/河出書房新社
1990年代論
著 者:大澤 聡
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ/かもがわ出版
エキタス 生活苦しいヤツ声あげろ
著 者:今野 晴貴、雨宮 処凜
編 集:エキタス
出版社:かもがわ出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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