「改組 新 第4回日展」開催 書家・井茂圭洞氏に聞く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2017年11月10日

「改組 新 第4回日展」開催 書家・井茂圭洞氏に聞く

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第3回
生涯取り組む「かな」。錬磨考究し線の中に思いを封じ込める

ほととぎす(良寛)現代書道20人展
2002年
井茂氏は生涯をかけて「かな」に取り組んでいる。教育大学で教鞭を執っていた頃、学生が高校生を指導するために「かな」についてまとめた。これ以上簡単にはできないかなの美しさを「至簡の美」、一番かならしい、変化をもちながら流れる美しさを「流麗の美」。字を書くときのタッチによって時間が生み出す空間の美しさを「間の美」、あるいは「切断の美」。墨は無彩色のため雲にも岩石にも書け、見る人の感情によっていろいろな訴え方ができるという「墨法の美」。そして書かれていないところをいかに美しく見せるかという、散らし書きの「余情の美」である。さらに、料紙の工芸美との調和もある。これらの研究は、自分の制作に違った意味でのアドバイスとなったという。
「深山先生からは、流麗の美を学ぶために『関戸本古今集』を勉強するよう言われました。一つの字を覚えてそれを並べて集団にするのですが、そう簡単に流れが出ない。単に連続線ではなく、字の傾きや最終画と次の画を有機的につなげる、そこがかなの難しさです。それでひとつひとつの字を『十五番歌合』や『伝小野道風筆秋萩帖』等で勉強しました。時間をかけることで、かならしいかなも、切ったかなもどちらも書けるようになったわけです」。
素材としては、豊かな人間性を素直に表現した「万葉集」、さらに素朴な内容の「古事記」、現代歌なら牧水、そして良寛などを書くことが多い。
海原 良寛作 第70回一東書道会展2017年


また、かな文字について、ある考察をしている。日本には漢字が伝来するまで固有の文字はなかったが、弥生時代に作られた銅鐸の絵の中に、かなを彷彿とさせる線を発見したのだ。
「漢字の場合、元の字は亀の甲羅などに書く甲骨文字で、線の質が直線的で鋭い。一方、かなは、漢字の草書を簡略化したと言われていますが、かなは線が少なく字の間や字の周りが非常に明るいのです。神戸市灘区の桜ヶ丘古墳から出土された弥生時代の銅鐸には、広い空間の中に鷺、亀、脱穀などが直線や曲線で描かれており、その線は豊潤にしてあたたかく、かなの線のルーツを思わせます。わびさびを好む日本人のアイデンティティが安土桃山時代に茶の湯を完成させたと同様に、曲線美に対する感性が平安時代の十一世紀にかなを完成させたのではないかと私は考えています」。

書家は線の行者ともいわれる。しかし見えるのは形で、形の美しさと、墨で書かれていない部分、余白がある。「師匠はこれを『要白』と命名しました。余ったのではなしに実際は『要る』のです。そして一字しっかり書くと周りの『要白』がきっちりとしまるわけです。そういうことで書には造形面と線の中に思いを封じ込めるということがあります。以前、海外で書のデモンストレーションをしたときに、『書はジャパニーズカリグラフィーでなく“書”と訳してください』と言いました。カリグラフィーというのは形のみです。形の修業に比べ、書として自分の思いを線の中に封じ込めるためには年単位の修業が必要です。一歩一歩、精進してそのような作家が増えてほしいです」。

そして、書の作品を読めれば書がわかったとは言えないと語る。「文字は意思伝達の記号です。しかし錬磨考究しなければ書にならないというのが岡倉天心先生の言葉です。そしてどんなことがどんなふうに書かれているかわかって初めて書が鑑賞できたといえます。作品の見分け方の一つは、書の作品に対面し、二分でも三分でも見ていることができ、何か吸い込まれるように、頭がすっきりし、何か親しみを感じられる書が理屈なしに良い作品です。また、ペンや鉛筆は動かしながら他のことを考えられますが、毛筆は他のことを考えながらでは動きませんので、書は頭の健康法ともいえます」。

さらに、精神を統一して筆を進める書は、子どもの頃から始めることが重要だと小学校教育への導入の活動が実を結んだ。「今度、十年に一度の指導要領の改訂がありまして、小学校一、二年生に軟筆が入り、中学生に書初めが入る予定です」。

高校一年での恩師との出会いから、書のひとすじの道を歩んでこられた井茂さんに、ある先生が書は「楽しいですか」と尋ねられ、「楽しくないのです」と答えたそうだ。「では止めようと思われたことはありますか」という問いに、「それは一度もないです。なぜなら山を越えた途端に次の山が見えて、楽しいと思う間がないのです」と答えた。この言葉は、まさに書家の生き方を表していると感じた。 
(取材・文/松井文恵)

――改組新第4回日展――2017年11月3日(金・祝)~12月10日(日)/
火曜休館/午前10時~午後6時(入場は午後5時30分まで)
*11月10日(金)は日展の日として入場無料
国立新美術館(東京都港区六本木7―22―2
東京メトロ千代田線乃木坂駅6番出口直結)
入場料:一般1200円/高・大学生700円
※入場券プレゼント 20組40名様をご招待。ご希望の方は(〒162―0805新宿区矢来町109 週刊読書人 日展企画編集部)へハガキにてご応募ください。締め切り11月20日必着。当選は発送をもって替えさせていただきます。

2017年11月10日 新聞掲載(第3214号)
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