アジア全体で見渡す奥深い仏教美術の世界 『アジア仏教美術論集』全12巻(中央公論美術出版)刊行中|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年11月24日

アジア全体で見渡す奥深い仏教美術の世界
『アジア仏教美術論集』全12巻(中央公論美術出版)刊行中

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中央公論美術出版より宮治昭・肥田路美・板倉聖哲監修『アジア仏教美術論集』(全12巻)の刊行が2017年2月から開始された(年2回配本)。本書は彫刻・絵画・工芸・建築などを含めた仏教美術がアジア各地域・各時代においてどのような様相を呈していたかを第一線の研究者がそれぞれのアプローチで光を当てていくシリーズとなっている。今回は既刊の「中央アジアⅠ」の宮治昭氏、「東アジアⅠ」の濱田瑞美氏と来年刊行予定の「中央アジアⅡ」の森雅秀氏、「東アジアⅥ」の朴享國氏(井手誠之輔氏と共編)にそれぞれ責任編集を務めた巻についてお書きいただいた。 (編集部)
第1回
最も変化に富んだ発展を見せた地域 「中央アジアⅠ ガンダーラ~東西トルキスタン」 宮治 昭

『アジア仏教美術論集』全12巻(中央公論美術出版)の刊行が始まった。この出版によって、多様性に富み、奥深い仏教美術の世界をアジア全体の中で見渡すことが可能となろう。

インドに興った仏教は、二千年以上にわたって広大なアジア諸地域に伝わり、根づいていった。仏教はもともと崇拝対象をもたない、いわば無神論の宗教であったが、日本に到達するまでの間に、実に多くの具体的なイメージ、像としてのほとけ・・・たちを生み出していった。仏教が多神教的な性格をもって発展した要因は仏教が時代を超え、空間を超えて、人々を苦しみから救ってくれる道を示したからであり、一方、仏教を受容したそれぞれの地域や民族、時代の環境に仏教自身が適応していったからであろう。言い換えれば、ほとけ・・・のイメージの中に、その地域・時代の人々の願いが込められていると言ってもいい。

本シリーズは仏教が南アジアのみならず、中央アジア、東南アジア、東アジアなどへ伝播する過程で、仏教美術―彫刻・絵画・工芸・建築など―が実に多様な展開を遂げるあり様を明らかにし、そこにいかなる問題が潜んでいるのかを提示することを意図している。それは仏教美術から「何が読み解けるか」という問題とも関わっており、近年の研究動向を踏まえ、特に三つの視点を重視した。

第1は仏教思想・儀礼・信仰などとの関わりの視点である。仏教経典自体、長い歴史の間に成立と解釈、再解釈が行われてきたが、経典には多くの説話・神話・世界観が含まれており、それらは僧たちによる伝承とともに図像化されていった。また、瞑想や儀礼、法会や絵解きといった宗教実践とも関わって“美術作品”が生み出されていったのである。仏教美術が仏教の思想や世界観、儀礼や信仰、また高僧や宗派などとどのように関わったかという、仏教の内在的な視点はまずもって重要である。

第2は社会・政治との関わりの視点である。壮大な仏教寺院や仏像・仏画が制作されるには王や貴族などの支配者、有力な僧や教団などの力によることが多い。一方で、一般庶民や零細な信徒集団など、多くの人々の結縁による造仏活動も少なくない。造寺・造仏の発願・寄進の意図やその実態、またパトロンと工房・制作者との関係、さらには戦乱や廃仏との関わりなど、仏教美術がどのような政治的関わりをもったか、社会的な働きや役割を果たしたかという視点も欠かせない。

第3は他地域や他宗教との関わりの視点である。インドからアジア諸地域間での交流によって仏教美術がどのように伝承され、変容を遂げたかという視点は、文化交流の実態を明確化するであろう。また、仏教がバラモン教・ヒンドゥー教、ギリシアやイランの宗教、神仙思想・道教・儒教、あるいは日本の神道など、それぞれの地域や民族の異宗教と出会い、並存、対立、混淆することによって変容し、展開したことを読み解く視点は、仏教美術の多様性のあり様を浮かび上がらせるであろう。

本シリーズは以上の三つの視点を念頭に、各巻に17~20本の第一線の研究者による論考で構成される。その中には海外の研究者の翻訳論文も数多く含まれ、世界水準での仏教美術論集となろう。しかも仏教美術を軸にしながら考古学・歴史学・仏教学・宗教学など、隣接分野の研究を含んでおり、仏教の広がりが改めて認識されよう。

最後に本シリーズの最初の刊行となった「中央アジアⅠ ガンダーラ~東西トルキスタン」の巻について述べておきたい。本巻は、Ⅰガンダーラ美術、Ⅱアフガニスタン・西トルキスタン、Ⅲ中国新疆、Ⅳ中央アジアの交流の4部立ての構成で、計19本の論考から成り、最初に拙稿「総論 中央アジアの仏教美術」を付した。

本巻で扱った中央アジアは、仏教美術が千年余にわたって最も変化に富んだ発展を見せた地域である。それはインドで生まれ育った仏教がヘレニズム・ローマ美術、ゾロアスター教やマニ教の宗教文化と出会い、交流を深め、混淆することによって展開を見たからである。中央アジアではインドや中国と異なり、縦軸としての仏教美術史を語ることは出来ない。中央アジア全域を支配した持続的王朝はなく、多くのオアシス国家の独自性が強いからである。しかし、クシャーン、エフタル、テュルク/突厥といった強力な遊牧民支配の下で活発な商業交易と文化交流がなされ、しかも地域性豊かなオアシス国家の文化が創出された。本巻を道標として中央アジアの仏教美術を見ていくと、まさに異文化との出会いによって仏教は自らをいかに豊かにしていったかが理解されるであろう。

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この記事の中でご紹介した本
アジア仏教美術論集 中央アジア〈1〉ガンダーラ~東西トルキスタン/中央公論美術出版
アジア仏教美術論集 中央アジア〈1〉ガンダーラ~東西トルキスタン
編集者:宮治 昭、肥田 路美、板倉 聖哲
出版社:中央公論美術出版
以下のオンライン書店でご購入できます
 アジア仏教美術論集 東アジアⅠ(後漢・三国・南北朝)/中央公論美術出版
アジア仏教美術論集 東アジアⅠ(後漢・三国・南北朝)
編集責任:濱田 瑞美
出版社:中央公論美術出版
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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