『エルネスト』オフィシャルブック〈もう一人のゲバラ〉 / 阪本 順治(キノブックス)過去と現代をつなぐ重要な史実 ゲバラ思想を今に引き寄せて考える |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月18日

過去と現代をつなぐ重要な史実
ゲバラ思想を今に引き寄せて考える 

『エルネスト』オフィシャルブック〈もう一人のゲバラ〉
著 者:阪本 順治
出版社:キノブックス
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広島を訪れる外国人観光客の数は昨年二〇〇万人を越えた。その多くが原爆ドームを見学するそうだが、彼らの脳裏にはこんな言葉が浮かぶのだろうか。
「日本は米国にこんなにひどい目に遭わされて、どうして怒らないのか」

キューバ革命の英雄、エルネスト・チェ・ゲバラが一九六七年一〇月九日に南米ボリビアの山村で政府軍兵士に射殺されてから五〇年目にあたる今年一〇月、阪本順治監督によって製作された映画『エルネスト』が公開された(九月二九日付特集『革命家エルネスト・チェ・ゲバラ歿後半世紀』参照)。

同作品が扱うテーマへの理解を深めるための本書は、監督はじめ出演者へのインタビューや、二〇世紀半ばのボリビアとキューバでのゲリラ闘争についての背景知識、そして専門家・作家たちのエッセイという構成になっている。インタビューでは、四八年ぶり二度目の日玖合作(一作目は一九六九年の故黒木和雄監督の『キューバの恋人』)でキューバロケに臨んだ阪本と主演俳優オダギリジョーによってその製作現場がいかに波乱含みだったかが語られ、キューバ側製作陣に寄せる日本側の敬意と信頼、そして両者の忍耐が伝わる。撮影の合間に撮られたという、キューバの何気ない生活風景を切り取ったスチール写真が、半世紀前の市井の様子を伝えているようでもある。実在する建物や風景が当時と変わらないために、映画撮影でもそのまま使われたというのもうなずける。

映画の主人公の日系ボリビア人ゲリラ・フレディ前村の姉マリーは、弟の短い人生を世の中に知ってもらうことを切に願って映画の原案となる本を著し、二年前に他界した。評者は彼女に三度インタビューをしたことがあるが、本書のエッセイがそれぞれ実にユニークな視点で描かれているように、歿後五〇年を機に弟を巡って様々な言論が日本で展開されることになったのを、彼女はこの上なく喜んでいるに違いない。だからこそ、この物語にまつわる秘話が登場する本書には、ゲリラ殲滅後の軍政下のボリビアで、ゲリラの家族たちがどんな迫害や苦しみの中に生きてきたかが語られて然るべきだった。日の目を見ていない野史はその後も続き、米国に支援されたラテンアメリカの軍事政権がその後半世紀の間にどれだけの傷跡をこの大陸に残したか、またゲリラの遺体発掘のエピソードも過去と現代をつなぐ重要な史実だ。

冒頭の言葉は、一九五九年七月にゲバラが広島平和記念公園と資料館を訪問した際に広島県庁の担当者に投げかけたもので、本書でも度々引用されている。日本人は、このストレートな問いに、一人一人がまっすぐ答えられるだろうか。キューバをはじめとするラテンアメリカ地域一帯はゲバラの死からわずか一年半後の一九六九年に、世界に先駆けて非核兵器地帯を宣言し、国連の核兵器禁止条約にも依然積極的だ。先の問いを日本人が自問するなら、今の国際社会は歓迎するかもしれないと考えるのは行き過ぎだろうか。

本書と並んで、同作品を小説化した『映画ノベライズ エルネスト』(豊田美加著)、前述の原案本『チェ・ゲバラと共に戦ったある日系二世の生涯』(マリー前村、エクトル前村ウルタード著、いずれもキノブックス)が映画の公開に合わせて出版されている。

この記事の中でご紹介した本
『エルネスト』オフィシャルブック〈もう一人のゲバラ〉/キノブックス
『エルネスト』オフィシャルブック〈もう一人のゲバラ〉
著 者:阪本 順治
出版社:キノブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
映画ノベライズ エルネスト〈もう一人のゲバラ〉/キノブックス
映画ノベライズ エルネスト〈もう一人のゲバラ〉
著 者:豊田 美加
出版社:キノブックス
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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