新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか / 北野 武(幻冬舎)北野 武著『新しい道徳「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか』 金沢星稜大学 山口 三耶子|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年11月18日

北野 武著『新しい道徳「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか』
金沢星稜大学 山口 三耶子

新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか
著 者:北野 武
出版社:幻冬舎
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道徳とは何だろう。道徳教育とはどのような教育だろう。来年度から道徳が「特別の教科」に格上げされる。これは教員を志す私にとっても、子どもを持つ親にとっても、社会生活を営むすべての日本人にとっても大きな出来事と言えよう。そこで、「道徳とは何か考えてみたい」と思い、この本を手に取った。

この本は著者の北野武氏が、彼の抱く道徳観を述べたものである。全体を通して今の道徳教育を批判し、著者自身が考える道徳教育のあり方を具体的に示している。

著者は道徳とは「人間関係を円滑にするための技術」であり、「子どもの道徳教育でいちばん大切なのは、本音で話すことだ」と主張している。著者は毒舌家として知られるが、それは常識や建前に対する反骨精神の表れでもあり、そこが多くの国民にも共感されるのであろう。

道徳が教科化されるにあたって、平成29年3月公示『学習指導要領』「特別の教科 道徳 目標」には、「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。」とあるが、著者は「人生がこれから始まるっていう子どもに、自分を見つめさせて、なんの意味があるのか」というツッコミを入れている。道徳の題材から日常生活でよく見られる場面、「電車の席に座った子どもが嫌そうな顔をしている。隣の大人は眠ったふりをしている。目の前に年寄りが立っているからだ。大人も子どもも、席を譲りたくないんだろう」「こういうときは、どうすればいいか、みんなで考えましょう」を選び、「『どうぞ』といって年寄りに席を譲るっていうのが、正解なのだろう。/……これは、嘘じゃないのか?」と疑問を投げ掛けている。

この子どもは年寄りには親切だが、自分の気持ちに正直ではいられないことになる。この矛盾はとても悲しい。著者も「これは子どもに嘘をつけといっているのと同じことだろう。」と批判している。道徳科の指導項目に「正直・誠実」「親切・思いやり」がある。他人に親切であるためには自分の気持ちを偽らなければならない場合もあることを教えているようである。この題材の場合、子どもの気持ちは最初から考慮されていない。「自己を見つめる」ためには、まず自分の気持ちを知ることから始まると思うのだが。

また、嘘は本当にいけないことなのだろうか。世の中には優しい嘘もある。例えば誰かからの贈り物が嫌いな物であっても、笑顔で感謝の気持ちを伝えるだろう。このように相手の気持ちを慮ることができる人が普通、「道徳的な人」と呼ばれる。残念ながら、『学習指導要領』はこの矛盾に応えていない。教員や周囲の大人の解釈に委ねられている。著者が今の道徳教育を批判していたのは、これらの矛盾に加え、大人が道徳について建前でしか考えていないからだと思う。私たちは道徳の教科化を機に改めて「道徳とは何か」「子どもに道徳をどのように伝えていくのか」を多面的・多角的に考える必要があろう。

参考文献:平成29年3月公示『学習指導要領』

この記事の中でご紹介した本
新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか/幻冬舎
新しい道徳 「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか
著 者:北野 武
出版社:幻冬舎
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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