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読書人紙面掲載 書評
2017年11月18日

学問的信念とは何か
大学のいまを知る入門書 
さまざまな観点から「病」を摘出

「大学改革」という病   学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する
著 者:山口 裕之
出版社:明石書店
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大学の歴史、大学改革の流れ、巨額な税金と「学問の自由」、入試制度の功罪、職業教育の問題点などを、いまはやりの言葉を使えばエビデンスでしっかり固めながら、冷静な筆致でまとめている。平易な表現で筋道立てた論運びゆえ、とてもわかりやすく、大学のいまを知る入門書といっていい。

著者の基本的なスタンスは明確である。

大学論を展開する上で絶対的な根底として、民主主義とはすべての国民が賢くあらねばならないという無茶苦茶を要求する制度であり、それを実現するために大学が存在する――がある。

しかし、そうはなっていない。いまの大学はおかしい、と著者はさまざまな観点から「病」を摘出する。いくつか抜き出そう。

(1)企業や社会が求める人材の育成。これが大学の社会的責務となっているのはおかしい。

そのとおりである。1990年ぐらいまで大学は就職予備校でいいのか、という批判があった。しかし、いまや大学は就職予備校でなければならなくなった、と認識される向きがある。受験生、保護者向けの大学説明会では、教育内容、学生生活よりも、わが大学がどれだけ進路支援に力を入れ、どれほど「優良企業」に就職したかを訴えている。教授会でも学部就職率向上が議題になる。就職実績という成果主義は、企業にとってより便利な人材を、社会からすれば都合が良い人材を育てるような圧力をもたらす。ときに就職最優先主義は大学教育を蔑ろにする。カリキュラムが微妙に就職向けとなって教養、専門教育が減ってしまう。4年次、会社説明会に出席するためにゼミや卒論指導授業をサボってしまう。これらはみんな本末転倒である。

(2)競争主義は研究や教育の発展を導くのか、はなはだ疑問である。

大学に関わり合いを持つと、大学についていかようにでも語ることができる。最近、もっとも多いのが、企業の論理を大学に持ち込もうとする言説だ。企業は競争、そこから生み出される成果主義によって、評価される。ものが売れないとダメという見方だ。大学はそれに代わる成果を示せ、という。たとえば教育面で資格試験合格者数やTOEICスコアの高得点獲得、研究面では論文数や産学連携件数などである。

しかし、教育や研究の成果は一朝一夕で示されるものではない。とくに基礎研究は失敗の連続であり、ノーベル賞級の発明などめったにない。教育も学生の能力や資質に合わせるためえらく時間がかかる。成果が示されない=競争に勝てない。だからいま進めている教育や研究は見直すべき、という論法は乱暴すぎる。大学に企業の論理ともいうべき競争主義、成果主義をやみくもに取り入れると、現場は混乱するだけだ。

(3)大学の研究が国民の意向によって左右されることは、国民にとって有害である。

著者は進化論、平和思想を例にあげて、次のように訴える。――キリスト教の教えを厳格に守る人たちが、いまでも進化論を信じていない。こんな社会でこそ、進化論を教育しなければならない。また、大多数が戦争を望むような雰囲気になったとき、学者は平和の大切さを説かなければならない――。

いずれも国民の意向が強く示されたとしても、学者は学問に裏付けられた専門性をしっかり貫かなければならない。学問的信念、学問的良心、学問に基づく普遍性と言い換えてもいい。ところが、いま、日本で北朝鮮のミサイル発射、核実験をめぐって、ときに学者からあぶなっかしい言説が発せられる。まるで北朝鮮と戦争前夜のような語り口であり、核武装を説く学者までいる。とんでもない話だ。

本書では、これらの「病」について具体的な処方箋が示されているわけではない。それは各大学が考えるべきことである。その際、大学は教育、研究がとてつもなく手間ひまがかかること、しかも、無駄が多いことを認識してほしい。お金や時間をけちったりすれば、教育、研究のレベルはどんどん下がってしまう。そのためには、国に対して高等教育関連予算を十分に確保してもらうよう、訴えていくしかない。

この記事の中でご紹介した本
「大学改革」という病   学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する/明石書店
「大学改革」という病   学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する
著 者:山口 裕之
出版社:明石書店
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2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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