運命と復讐 / ローレン・グロフ(新潮社)嘘を巧みに組み合わせた複層的な物語|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月18日

嘘を巧みに組み合わせた複層的な物語

運命と復讐
著 者:ローレン・グロフ
出版社:新潮社
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運命と復讐(ローレン・グロフ)新潮社
運命と復讐
ローレン・グロフ
新潮社
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フィクションとは「嘘」を前提にしたものであるが、同時に端正に紡ぎあげられたストーリーの中に、人はリアリティを見出し、本当にあったことのように信じようとする。その矛盾のひしめき合いこそが小説の魅力の一つと言えるであろうが、本作『運命と復讐』は、あからさまな「嘘」と思わぬ「嘘」を巧みに組み合わせた目眩ましのような複層的な深みを持った展開になっている。

ストーリーの根幹をなすのは一つの「結婚」をめぐっての、登場人物ふたりの人生である。彼らの周辺を俯瞰しつつ、彼らを襲う数々の運命の波をドラマティックに描く大河恋愛小説であると言える。ふたりの生涯を追った長い年月の記述には、巧みな語りの工夫もちりばめられている。
「舞台の幕が切って落とされた」ように始まる冒頭のシーンは、まるで熱いメロドラマのようだ。二十二歳で駆け落ちし、結ばれたばかりのふたり。海辺で愛し合い、祝福に駆けつけた友人たちと『グレイトギャツビー』さながらのパーティが始まる。そしておもむろに夫のロットの人生の紹介が始まる。父母の出会いから、幼少期の家庭環境の変化、荒れた思春期、数多くの女性との関係、そしてマチルドとの恋……。中でも注目すべきは演劇との出会いである。「すべてを解決してくれる答えがここにある」とすら思ったシェイクスピア演劇にのめり込んだロットは日常会話にも巧みにシェイクスピアのセリフを織り交ぜる。もちろんそれは上流階級のスノッブと取れるのだが、思春期の重大な過ちを経たロットという人物を、たくさんの人に愛される才能ある人物と見せかけるペルソナ=嘘としての意味合いも大きい。ロットはマチルドと結婚し、俳優として仕事をするがうまくいかず、劇作家に転身する。きっかけはロットがある夜に書きなぐった草稿であるが、そこからとんとん拍子に成功していく様子を描くにあたりテキストは特殊なスタイルを見せる。ロットが書く戯曲の内容(中にはギリシア悲劇をはじめとする古典的なモチーフのものもある)やヒットして得られる反響が、ロットとマチルドの夫婦生活の歴史そのもののように時系列に描かれているのだ。戯曲というフィクション=嘘と現実が巧みに混ぜられている。そしてある「未完」の原稿とともに、夫婦生活に疑惑が生じ、深い「闇」を残して終焉を迎えるところで第一部は終わる。

そしてマチルドの視点から描かれた第二部では、その「闇」を解き明かすように、ロットの物語をすべて覆すような展開を見せる。マチルドという名前からして偽名である彼女の人生は、たくさんの秘密とそれをごまかす嘘によって成立している。夫の劇作家としての成功でさえ、彼女の嘘に支えられていたのだ。

壮大なドラマの中でどこまでが本当でどこからが嘘か、いやすべては嘘で塗り固められて嘘以外の真実はないのではないか、という問いにグラグラ揺さぶりを掛けられるような衝撃を覚えるつくりになっており、ローレン・グロフという作家の古典的教養に加え、フィクションそのものへの強い挑戦を感じさせる。と同時にアメリカンドリーム的なものへの皮肉もこめられており、それが同作者の作品の邦訳として読める村上春樹訳の『恋しくて-TEN SELECTED LOVESTORIES』(中公文庫)所収の短編にも見て取れる。マチルドのした復讐とは、単純に自分の仕掛けられた罠に対する報復という意味だけでなく、その引き金になっているアメリカンドリーム的な「富」への強烈な意趣返しと言えるかもしれない。(光野多惠子訳)

この記事の中でご紹介した本
運命と復讐/新潮社
運命と復讐
著 者:ローレン・グロフ
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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