踊る星座 / 青山 七恵(中央公論新社)“笑劇”を呼ぶ脱力系小説  ユーモア&ペーソス、そしてきらめき|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月18日

“笑劇”を呼ぶ脱力系小説 
ユーモア&ペーソス、そしてきらめき

踊る星座
著 者:青山 七恵
出版社:中央公論新社
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踊る星座(青山 七恵)中央公論新社
踊る星座
青山 七恵
中央公論新社
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現実が虚構めいてきたと思ったのも束の間、虚構を凌ぐ世界になってしまった。ならばフィクションの醍醐味とは何かとなかば途方に暮れる読み手にとって、小説の愉悦をあらためて感じさせる書き手のひとりが青山七恵である。

デビュー以来、日常という見馴れた景色のなかにひそむ、人間たちの思惑、生きることそのものの不可思議さを、丹念に描写し続けてきた。彼女が描く人物は、少女も老女も、女たちも男たちも、慎ましく世界に対峙する愛すべき者たちだ。丁寧になぞられる彼らの輪郭は温かく、私たちの世界と地続きの場所にひっそりとたたずんでいる気配、息遣いを漂わせていた。

ところが、今度は少し様子が違う。日常を描く慎重な手つきはそのままに、『踊る星座』では思いもかけないほど突き抜けた地平を現出させた。

登場人物たちのふるまいが尋常でない。尋常でないというのは、あくまでも常識や普通といったつまらない尺度に照らし合わせての形容で、言い換えれば、とびきり滑稽でちぐはぐな人たちということなのだが、本人たちにその自覚がないところが痛快だ。彼らは登場したときの一見マトモな印象から少しずつはぐれていって、主人公や読み手を置き去りにしたまま何処かへと走り抜けて行ってしまう。だが、そこに奇妙な爽快感がある。

主人公である「わたし」は、ドレスやシューズといったダンス用品を売る会社の営業職なのだが、出先で火事騒動に遭遇したり(「煙幕」)、見知らぬ娘に突然「ママになってくれる?」と聞かれたり(「わたしの家族」)、仕事の合間に家族全員から縋りつかれたり(「お姉ちゃんがんばれ」)、とにかくアクシデントまみれなのである。こう書くと、「仕事がつらいだの職場や顧客が変だの家族が面倒だのと言った、働く女子の日常を描いた小説か」と思うかもしれないが、ハナシはそう単純ではない。

彼女の仕事はもちろん、ダンス用品を納めたり倉庫に取りに行ったりすることで、鞄にはサンプルやカタログがぎっしり詰まっていて取引先もダンス教室だったりするのだが、彼女を見舞うアクシデントは、本来あるべき形の勤労によるものとは異なる種類の疲弊をもたらすのだ。

ホテルの喫茶室で人格供給商会の日本支部長なる人物から人格を採取されたり(「あなたの人格」)、タクシーの運転手となりゆきで「テルマ&ルイーズ」のような道行を演じるハメに陥ったり(「テルオとルイーズ」)と、まるでコントのような出来事が彼女の日常を浸蝕する。

社長の誕生日を祝う会食の席で、社長ではなくその妻の凄まじい漂流人生を延々と聞かされ(「奥さんの漂流時代」)、逃れるように外へ出たところでジャスミンの香りに心奪われていると何処かに連れていかれて、「この星の生命」を託されるという壮大な展開に至る(「ジャスミン」)。先行きどころか自分自身さえ見失いかねない強烈な干渉が次から次へと起こるのだ。そしてそれらに対して、彼女はどこまでも無力だ。その姿がまた、滑稽でもあり愛おしい。

13の短篇は、独立した星のように一見よそよそしく、しかし有機的に繋がってゆく。星々を連ねる線はゆるやかで柔らかいが、ユーモアとペーソスを滲ませながら、時折、きらめきを見せる。そのきらめきとはつまり、人が生きて誰かに会って、感情を揺らした痕跡だ。

「このでたらめでせわしない世界」は、複数の日常の絡まりでできている。ひとりの人間を起点に描かれるいくつもの星座の連なりだ。それは時に思いもかけない景色を見せてくれる。青山七恵の新境地、まさに“笑劇”を呼ぶ脱力系小説『踊る星座』は、その醍醐味に満ちあふれている。

この記事の中でご紹介した本
踊る星座/中央公論新社
踊る星座
著 者:青山 七恵
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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