永井陽子『樟の木のうた』(1983) べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年11月21日

べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊
永井陽子『樟の木のうた』(1983)

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永井陽子は音楽を題材とした短歌を好んで作った歌人。その作品の中でも、代表作として引かれることの多い一首がこの歌である。「べくべからべくべかりべしべきべけれ」というのは誰もが古文の授業で暗唱したことがあるだろう、古語の助動詞「べし」の活用形である。それを鼓笛隊が叩くドラムの擬音語になぞらえてしまうという、発想の絶妙さが魅力的な一首だ。もう「べし」の活用形を聞くたびにこの歌のことを思い出さずにはいられなくなってしまう。逆にいえばこの歌のおかげで「べし」の活用形を覚えられた、なんて人もいるかもしれないが、一つ罠がある。音数を定型にするためなのか、連体形の活用「べかる」が削られている。くれぐれもご注意を。

意味のある言葉を意味から切り離して擬音語として使ってしまうという手法を用いた短歌は少なくないのだが、その嚆矢となったのが永井陽子のこの一首だろう。かつては「生きた言葉」だった古典文法を、受験テクニックのために意味から切り離して不思議な呪文のように一斉に暗唱してしまう。そんな現代の古文教育を戯画化してみせた、ちょっとした皮肉なのかもしれない。しかしそれ以上に声に出して読んだときの快感が強い歌でもあり、短歌とはやはり「うた」であったことを改めて思い起こさせてくれる。全体を通して「かきくけこ」、つまりK音の硬質な響きが印象的な歌で、それは後半の「すずかけ並木来る鼓笛隊」にまで一貫している。

2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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