「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために / ビル・エモット(日本経済新聞出版社)今世界が直面している事態にどのように対処すべきか  考えさせる指針やヒントを与えてくれる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月25日

今世界が直面している事態にどのように対処すべきか 
考えさせる指針やヒントを与えてくれる

「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
著 者:ビル・エモット
出版社:日本経済新聞出版社
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日本のバブル崩壊を予言し、ベストセラーになった『日はまた沈む』の著作で知られるビル・エモットの最新作である。

ここ十数年世界で起きた事件や出来事は世界を大きく揺るがせ、予測不可能な不安定さが人々を不安に駆り立てている。国際ジャーナリストの著者は、本書で、豊富な事例やデータを駆使することによって、それが一時的な揺らぎではなく、「西洋の理念」の後退からくるきわめて深刻な問題だと捉える。

著者がここでいう「西洋の理念」とは、「これを育めば好環境が生まれ、自由と幅広い機会によって、新しい物事が創出され、制約の少ない生活によって、繁栄、安定、安全がもたらされる」もので、それは自由に由来する「開放性(openness)」と「平等」という理念の組み合わせによって生み出されるものであるという。

しかし今日、この二つの理念からなる西洋の調和と発展が大きく揺らいでいる。グローバリズムの結果(反動)として「開放性」に異議が唱えられ、権利の「平等」が疑念にさらされている。その結果、社会は「変化に適応する能力」を失い、「脅威や弱みに付け込む勢力」の台頭を許してしまった。孤立主義的な傾向を深め、壁の構築を進めようとするトランプ大統領、ブレグジット、世界各地で勃発するテロリズム、欧州への難民流入とそれに反応する右翼ポピュリズム政党の台頭、国際ルール無視のロシアの横暴、経済力を背景に「北京コンセンサス」を押し付ける中国、とりわけ先進国で深刻になってきている経済格差拡大など、次から次へと起こる反西洋的な事態を目の当たりにして、一世紀前にオズヴァルト・シュペングラーが語った「西洋の没落」を改めて人々に思い起こさせている。

だが、著者は、この事態に嘆いているだけではない。本書の翻訳タイトルは「西洋のおわり」であるが(原語は「The Fate of West」)、サブタイトルで示されているように「世界の繁栄を取り戻すため」の提言も行っている。特に最終章では、西洋の衰退は「運命(fate)」ではなく、「政治のやり方」しだいでより「高度に」「強力に」西洋を復活させることが可能だとし、衰退を逆転させるための「八原則」を読者に示す。これらの提言は、とりわけ今日の硬直化した日本において当てはまるように思える。ただし、著者が、各章で、「開放性」をとりもどす方策として一部の集団が持つ特権、それを守る障壁や規制の撤廃を求めるとき、急激な流動性から身を守る「壁」、暴走する資本主義にブレーキをかける「規制」、地球環境の悪化を防ぐ「規制」の存在までその対象に含めるのかどうかについて、もっと詳細で具体的な議論を必要とするであろう。また、高齢化や人口動態の問題について論じられている第9章「シルバーヘアーとスマート・ドローン」において、ドローン、AI、ロボットの登場とともに、「民主主義の昔ながらの災厄、多数派の横暴が白髪(シルバーヘアー)とともに出現するおそれがある」と語るとき、社会全体のバランス、とくに「自由(開放性)」と「平等」のバランスを取ることの難しさを改めて感じさせる。そもそも「自由」と「平等」は、西洋の歴史の中では対立してきたものであり、その調和はそう簡単ではない。

西欧中心主義批判がなされて久しいが、いまだ西洋的理念に代わるものが見えてこない現在において、本書は、今日の世界が直面している新しい事態にどのように対処するべきか、考えさせる指針やヒントを与えてくれている。(伏見威蕃訳)

この記事の中でご紹介した本
「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために/日本経済新聞出版社
「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
著 者:ビル・エモット
出版社:日本経済新聞出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年11月24日 新聞掲載(第3216号)
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