凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力 / 京谷 啓徳(講談社)同時代の記録や先行研究を博捜し当時の華やかな様子を紙上に再現 |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年11月25日

同時代の記録や先行研究を博捜し当時の華やかな様子を紙上に再現 

凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力
著 者:京谷 啓徳
出版社:講談社
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ヴェネチアに留学してルネサンス美術史を修め、『ボルソ・デステとスキファノイア壁画』(中央公論美術出版、二〇〇三年)という大著まである著者が、浅草オペラにはまって抜けられなくなっていると風の噂に聞いた。そのうちに今度は大衆演劇に夢中になり、場末の芝居小屋に足繁く通い、芸人の追っかけまでしているらしい。本業を忘れてそんなことに現を抜かしていたら、美術史業界から相手にされなくなるぞ、私のように。という心配はどうやら杞憂に終わったようだ。その証が本書である。

明治三十九年(一九○六)正月に三越百貨店が顧客に配った双六が本書の振り出し、上がりにいたる道中に凱旋門と活人画がある。

凱旋門は日露戦争の勝利を祝うもの、実際その前年に三越百貨店の店頭に建設され、凱旋軍のパレードを迎えた様子が双六に描かれている。もちろんそれはハリボテの仮設建築で、祝勝会が終われば撤去された。

一方の活人画とは、耳慣れない言葉かもしれない。フランス語「タブロー・ヴィヴァン(生きた絵画)」の翻訳語で、扮装した人間が絵画を真似た催しである。明治後期に一世を風靡した。絵画の人物に成り切るのだから、人間は動かない。それの何が面白かったのか、私には長らく疑問だったが、著者はその面白さを見事に教えてくれる。

演じるのは良家の子女や奥様、会は上流階級の社交の場かつ慈善の催しであり、巷の見世物や演劇とは対極にあった。それにもかかわらず、化粧し仮装して舞台に上がるのだから当人たちには退屈な日常を抜け出す喜びがあり、他方に「芸人風情の真似」はもってのほかという厳しい意見があった。ゆえに高尚であることが演出された。

それにもかかわらず、女たちの姿態をじろじろと眺める楽しみが観客の側にはあったという活人画を、あたかも著者は舞台の袖に立って実況中継するかのように語る。演劇に通じた著者ゆえの説得力がある。

しかし、本書の真骨頂は、ちょうど双六のように、それぞれの源流をルネサンス期のヨーロッパ各地へと探り歩くことにある。

両者のはじまりは異なるものの、一体となった場合も数多くあった。入市式といい、君主や教皇など権力者が支配する都市を訪れる時に凱旋門は建てられ、活人画が演じられた。同時代の記録や先行研究を博捜し、図版をふんだんに示して、当時の華やかな様子を紙上に再現する。

凱旋門に古代風のデザインが求められたのは、権力者らが自らをローマ皇帝になぞらえたからだが、古代ローマにおいても凱旋門はそのほとんどが仮設で、稀に恒久建築として建てられたものが現代のローマに残ったにすぎない。

また、アルプス以北の活人画には、君主の入市をキリスト降誕に見立てるという宗教的な枠組みを持ったものが多かった。

著者はこうしたいつの時代にもある仮設の文化、その場かぎりの催しに「はかなきスペクタクルの力」(本書副題)を見出し、やがてそれが大衆化していく歴史を、後半では主に活人画を通して明らかにする。

十九世紀にいたると、国家的・公的な余興(一八一四年のウィーン会議で数々開催)や上流階級の娯楽(ゲーテ『親和力』が活写)として普及した。世紀後半にはさらに大衆化した。アメリカにも(『風と共に去りぬ』や『赤毛のアン』が家庭や学校での活人画を描写)、さらには明治の日本にまで伝わったことは先に述べたとおりである。

動かぬ女性たちが観客から一方的に眺められるものであれば、そこに裸体が登場するのは時間の問題だった。早くも一五〇〇年前後のブリュッセルやアントウェルペンで裸体活人画が行われた記録がある。近代ではショウ・ビジネスに取り入れられ、パリやベルリンの盛り場へとその場所を移した。そして最後の話題は敗戦直後の日本の「額縁ショー」(動かないヌードショー)である。

ルネサンス研究者としての研究の蓄積の下から芝居好きの地金が随所に現れ、それを隠そうとはしない。ゲーテに付した第四章注四〇などはほぼ一頁にわたって歌舞伎や大衆演劇へと展開、著者の「一人で感動」がこちらにも伝わってきて大いに楽しんだ。。

この記事の中でご紹介した本
凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力/講談社
凱旋門と活人画の風俗史 儚きスペクタクルの力
著 者:京谷 啓徳
出版社:講談社
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2017年11月24日 新聞掲載(第3216号)
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